REPORT
2016.04.28
「食」から、働く人のライフスタイルを豊かにする
~「食」を通じ、働き方改革を実現する~
ワークライフバランスや健康経営といったキーワードが目立つこれからの「はたらく」において、「食」はどのように寄与できるのか。
「オフィスおかん」を立ち上げた株式会社おかんCEOの沢木さんと議論を交えました。
2016.04.28
ワークライフバランスや健康経営といったキーワードが目立つこれからの「はたらく」において、「食」はどのように寄与できるのか。
「オフィスおかん」を立ち上げた株式会社おかんCEOの沢木さんと議論を交えました。
ゲスト:沢木恵太(株式会社おかん 代表取締役 CEO)
モデレーター:山田雄介(株式会社岡村製作所)
みなさん、「オフィスおかん」をご存じでしょうか?「オフィスおかん」とは、株式会社おかんが提供する、設置型のぷち社食サービスのこと。企業のオフィスに小型の冷蔵庫を設置し、利用者はその中にある真空包装された美味しく健康的なお惣菜を、いつでも食べることができるというものです。
働く人に、食を通して健康的になっていただきたいという思いから生まれ、約2年が経つサービスは、現在では約300もの拠点に導入されています。ワークライフバランスや健康経営といったキーワードが目立つこれからの「はたらく」において、「食」はどのように寄与できるのか。「オフィスおかん」を立ち上げた株式会社おかんCEOの沢木さんと議論を交えました。
山田:「オフィスおかん」をオフィスに導入する動機はどういったものが多いんでしょうか?
沢木:お客様ごとに多様な思惑がありますが、オフィスの立地の問題も多いです。オフィスビルばかり立ち並び、昼食をとる場所がなかったり、あったとしても長蛇の列ができていたり。また立地によってはコンビニすらないということもあります。
山田:「オフィスおかん」というサービスを思いついたきっかけは?
沢木:2つあります。1つは、「ユーザー視点」です。私自身、これまで異なる3社での勤務を経験し、実際に昼食に困る経験をしてきました。忙しい中できちんと食事をとる暇もなく、健康診断を受けると、いくつもの項目で再検査になってしまうような健康状態になってしまったんです。「どうしたら、忙しくてもしっかりとした食事がとれるか」と、考えた先に行き着いたのがこのサービス。自分が利用したいという思いから作りました。
もう1つは、「地方のリソースの活用」ですね。地方のお惣菜チェーン店は、人口減による需要減などに悩まされていて、工場のリソースが余ってしまっているケースがあります。それを上手く活用できないかと考えたのもきっかけの1つです。「オフィスおかん」のお惣菜は、そういったお惣菜チェーン店と共同して、地方の良さを潰さないような工夫をしています。
山田:なるほど。では、いざ事業として立ち上げに踏み切れたのはなぜですか?
沢木:「オフィスおかん」は、ネット上で完結するサービスではなくリスクを伴うため、私自身すでに妻子がいたこともあって、事業として立ち上げることに不安がありました。しかし、テストマーケティングをした際に、多くの企業の方に賛同いただいて、実現すればぜひ導入したいという声が多くあがったんです。そこで、事業としてやる価値を感じて、実施に踏み切りました。
山田:沢木さん自身のワークスタイルの中で課題が出てきたことに加え、テストマーケティングをきちんとおこなったことが、「オフィスおかん」を事業として実現できたポイントなのですね。
山田:ここからは、「オフィスおかん」が導入される理由を、社会的背景からうかがっていきたいと思います。
沢木:はい。「オフィスおかん」は、ユーザー視点のニーズと企業視点のニーズ、この両方を汲んでいると考えています。働く人の昼食の時間と昼食代は、平均19.6分、金額が510円というリサーチ結果があり、ファストフードでしか食事がとれないような現状があります。でも、自分のために食事をしっかりとりたいという思いは誰しもありますよね。それは企業にも好影響を与えるということがわかっていて、WHO(世界保健機関)は「適切な栄養を摂取すると、平均よりも20%生産性を上げることができる」と発表しているんです。
山田:たしかに、今日の昼食を振り返ってみると、私も実際そのくらいの時間でした。企業視点のニーズというのはどういうことでしょうか。
沢木:企業側のニーズの背景としては、「福利厚生の変化」があります。人口減による人材のリソースの確保や、女性の潜在労働人口の高さなどにも関心が向いてきて、企業も貴重な人材に長く働いてもらうために、社員のライフイベントの重視や、働きやすさなどを考えなくてはいけない時代になってきました。そこで企業の福利厚生サービスも、「非日常」から「日常」のサポートへの変化が求められてきています。具体的には、保養所、ホテル優待などから、衣食住に代表される、日常生活に寄り添ったものへ、といった形ですね。
山田:企業の制度自体の変革が求められているんですね。
沢木:そうなんです。「オフィスおかん」は、会社内だけでなく家に持ち帰って食べることができるので、働きながら子育てをされている方の夕食の準備の手間を省くことができて、その分の時間を有効に活用することができる。これは女性に限った話ではなく、男性としても、お惣菜を持ち帰ることで、食事の面で家庭のサポートができます。
山田:企業が、社員の「日常」をサポートすることを求められてきていることについて考えてきましたが、実際にどのような経営を目指せばよいのでしょうか。「オフィスおかん」の導入事例から、企業の健康経営について探っていきたいと思います。まずは、株式会社丹青社さんの事例からですね。
沢木:丹青社さんでは、女性社員が主導して「オフィスおかん」を導入し、社長がその取り組みを表彰しています。トップが健康のための取り組みを評価する、という風土ができ、社員に食を通した健康への意識を高めてもらう機会になったと考えています。また、当社の管理栄養士が、丹青社さんの新入社員に「食育」についてのセミナーをおこなっており、忙しい中でも食事を摂ることの大切さを理解していただいています。
山田:福利厚生と社員の意識がうまく関わって、健康経営の推進につながっていますね。参加者のみなさんのご意見はどうでしょう?
参加者:「オフィスおかん」の導入により、「オフィスでいつでも食事が可能」ということは、社員にとっては「長時間労働を助長する」という印象にならないのでしょうか。
沢木:導入前に不安の声が出ることもありますが、そういった懸念から、導入見送りになるケースはありません。「残業を減らしたい」という目的で導入していただくこともあります。どこかの飲食店に夕食を食べに行って、戻ってきて残業するとなると、外出する分だけ退勤時間が遅くなってしまいますよね。それを避け、退勤時間を早めるための解決策として利用いただくケースもあります。企業によって、導入の目的や利用の仕方が違ってきます。
山田:丹青社さんでは、昼食難民が解消されたほか、「オフィスおかん」を利用することで、社内で新たな出会いが生まれたんですよね。コミュケーションの活性化の事例としては、他にどういったものがありますか。
沢木:株式会社ラクスルさんでは、「オフィスおかん」の設置場所の近くに社員プロフィールを掲載するなどして、コミュニケーションが取りやすくなるような場づくりをしていただいています。単なる休憩所ではなく、社員が集まって食事をする場が生まれたことで、多様な部署とのコミュニケーションが生まれ、仕事に反映できるようになったそうです。
また、女性社員が9割以上を占める株式会社ランクアップさんでは、ママ社員の皆さんが時短勤務をされる中で、育児と仕事をどう両立して働くかが課題でした。その解決策として、「オフィスおかん」を導入していただきました。社長が社員に対し積極的に自宅に持ち帰ってもらうように推進し、夕食を作る負担を解消できるようにしました。そういった中で、「オフィスおかん」のお惣菜にひと手間加える社員が出てきたんです。そのアレンジの仕方を社員同士でシェアすることで、コミュニケーションの活性化にもつながりました。
山田:ママ社員さんならではですね。今日いらしている方の中で、女性社員が多い企業の方はいらっしゃいますか?
参加者:私の勤めている企業には社食があり、そこでヘルシーメニューなどを採用して女性社員に利用してもらうという取り組みがあります。でも、実際はお弁当を持ってくる女性社員が多いので、野菜が足りなかったりするときに、一品追加できるという点で、「オフィスおかん」はとても魅力的に感じます。
山田:「オフィスおかん」の導入の窓口となるのは、どういった部署の方が多いのでしょうか?
沢木:基本的には総務の方が多いですね。企業PRとして「オフィスおかん」を利用したいということで、広報部の方が窓口となることもあります。
山田:導入目的に応じて様々なんですね。参加されている皆さんから、導入に関しての質問などはございますか。
参加者:私の会社は、工場勤務の外国人ワーカーが半数を占めていて、外国人は日本人よりも自分で食事を用意することができず、栄養が片寄りがちになり体調を崩して帰国せざるを得ないというケースも多いです。外国人が多い職場での導入例はありますか?
沢木:外資系企業は福利厚生に積極的で、「オフィスおかん」を利用してくださるお客様も多いです。導入されているオフィスで金髪の女性がお惣菜を食べている光景を目にしたこともあって、外国人の方にも利用していただけているという実感があります。工場や倉庫などは立地が悪いケースが多いので、そういったところでの食事の面での支援として、「オフィスおかん」を利用していただいているケースもありますね。
山田:総務の方のご意見はいかがでしょうか。
参加者:私の会社にはリフレッシュルームがありますが、社員が利用しているのは昼食の時間だけで、それ以外の時間はほぼ空いている状況です。「オフィスおかん」は、いつでも食べられるということが魅力ですが、実際には特定の時間だけの利用になってはいないのでしょうか?
沢木:企業の規定にもよりますが、私は全体として、昼食の時間が多様になっていると感じています。24時間いつでも食べられるように、箸や器なども常時用意しているので、昼休みの時間にとらわれず利用することは可能です。「オフィスおかん」は一品ずつのお惣菜なので、お弁当よりも、お昼の時間に集中しにくくなっていて、お昼の少し前や、14時ごろに利用されている方もいらっしゃいます。
山田:企業内の制度や暗黙のルール次第では、こういったサービスの導入は難しくなってしまいそうですね。環境や、企業文化を改善してはじめて、従業員のパフォーマンス向上に還元されていくのではないでしょうか。
沢木:そうですね。ソフトとハードの融合は必要です。例えば、「オフィスおかん」は真空包装を利用している以上、包装パックのごみが発生します。そこで、使いやすい位置にごみ箱が設置してあったり、サービスを利用するための環境を整えようとされている企業のほうが、課題解決を達成されているケースが多いですね。
山田:では最後に、「働く人のライフスタイルを豊かにする」という理念を掲げる株式会社おかんの今後の活動の展開をお聞かせください。
沢木:2つあります。1つは、食への意識を変えていくことですね。その啓発のための取り組みをしていきたいと考えています。そのための環境を作る企業や、商品を作る企業と一緒になって、啓発活動をできたらいいですね。
もう1つは、サービスを通して得た知識などを活用して、プラスアルファの価値を生み出すことです。あくまでサービスは理念を実現するための手段でしかありません。ライフスタイルを豊かにするためには、「健康」であることが必要で、「健康」は、「食事」と「運動」でしかつくっていけないもの。私たちが「食」の面でそこをどう改善していけるかを考えながら、支援を続けていきたいです。
山田:本日はありがとうございました!
沢木 恵太
株式会社おかん 代表取締役 CEO
1985年長野県生まれ、中央大学商学部卒。一部上場企業にて新規事業開発、ベンチャー企業でゲームプロデューサー兼事業責任者を経て、EdTech領域のスタートアップに初期メンバーとして参画。2012年12月に株式会社おかんを設立し現職。
山田 雄介
株式会社オカムラ WORK MILL編集長
中学・高校時代を米国で過ごし、大学で建築学を学び、人が生活において強く関わる空間に興味を持つ。住宅メーカーにて住環境のプロデュース企画を手掛け、働く環境への関心からオカムラに入社。オフィス環境の営業を経て、現在は国内外のワークトレンドのリサーチやオフィスコンセプトの開発、メディアの企画、編集と幅広い業務に携わる。
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