REPORT
2016.01.29
“SEA DAY 01” 開催レポート [A-1] ワーク・エンゲイジメント Eng@WA 第1回公開研究会
近年、社員の働きがいに関する問題を抱えている企業が多くあります。この問題の解決策として注目されてきている考え方が「ワーク・エンゲイジメント」。このセッションでは、ワーク・エンゲイジメントの重要性と、それを高める方法が紹介されました。
2016.01.29
近年、社員の働きがいに関する問題を抱えている企業が多くあります。この問題の解決策として注目されてきている考え方が「ワーク・エンゲイジメント」。このセッションでは、ワーク・エンゲイジメントの重要性と、それを高める方法が紹介されました。
近年、職場環境や人間関係による環境のミスマッチの問題や、テクノロジーの発達、パソコンの普及などによる仕事と日常のシームレス化などが問題となっています。従業員の働きがいの損失は、個人だけでなく、組織、企業、また国全体の知識創造に悪影響を与えている。こういった問題に対するソリューションとして、「ワーク・エンゲイジメント」という考え方に着目し、設立されたのが、「Eng@WA(エンガワ)」。
「Eng@WA」とは、“Engagement @ Work Association”の頭文字から取り、日本の「縁側」と掛け合わせたもの。「働く人々の健康を重要な経営資源ととらえ、ワーク・エンゲイジメントの研究と実践を通じ、従業員が健康でいきいきと働くことを実現するための新しい働き方の創出と発信」を目的としたコンソーシアムです。現在コンソーシアムは、民間企業、学術・研究機関の研究者、医療従事者と多様なメンバーで構成されています。
今回のMeet upでは、2名の登壇者から、ワーク・エンゲイジメントと、従業員の気分を測定する音声解析技術について紹介されました。
まず、Eng@WAの幹事も務める国立精神・神経医療研究センターの西大輔氏が、現代の職場が抱えている問題について言及しました。「社員のメンタル不調によって、休職、退職だけでなく、仕事のパフォーマンス低下が起きていることが、大きな問題になっています。会社には来ているけど、その人の生産性が落ちている。そのことが会社の損失につながっている」と述べ、グラフを用いて指摘しました。
この問題の解決策として注目されてきているのが、「ワーク・エンゲイジメント」です。「ワーク・エンゲイジメント」とは、「仕事に誇りをもって、仕事にエネルギーを注ぎ、仕事から活力を得て、健康的に活き活きと働く状態」のこと。つまり、働く人にポジティブな感情を感じてもらう、ということです。これまでは、うつなど、ネガティブな感情が着目され、その対処法が考えられてきましたが、ポジティブな感情に注目が集まることは多くありませんでした。ワーク・エンゲイジメントのように、ポジティブな感情が注目されるようになった理由の一つは、ポジティブな感情に、ストレスを打ち消す効果があることが研究によって判明してきたからだと言います。
西氏は、「ポジティブな感情を感じることは、ストレスに対して強くなれる。ネガティブな感情を感じると、良く言うとひとつの問題に集中しやすい。悪く言えば、視野が狭くなる。それしか見えなくなってしまう。ポジティブな感情を感じると、視野が広がって、逆境に耐えられる要素が増える。そして、成長した自分を感じることでさらに好循環が生み出される」とポジティブな感情の重要性を語りました。
「個人の資源と組織の資源を高めることで、ワーク・エンゲイジメントは高まりうる」と西氏は言います。与えられた仕事の範囲や他者との関わりを自分で変えていくという、「ジョブクラフティング」や、自分が仕事に対して何を求めているかを把握することで、個人の資源は作り上げていくことができます。
組織の資源には、たとえば「裁量権」が含まれると西氏は述べました。仕事における裁量権とは、自分のやり方で仕事を進めていくことのできる権限のことです。「裁量権が高いと、仕事の負担が多くても、能動的に新しいことを身につける動機が高まる」とし、お金をかけずに、従業員に裁量権を与える方法として、「部下が困る仕事の頼み方(夕方や締め切り直前に仕事を頼むなど)をしない」といった具体例を示しました。
また、組織の資源を高める別の方法として、「心理的報酬を高める」という方法も紹介されました。「『職場の異性の同僚から言われて一番嬉しかったこと』についての調査で、女性で一番多かった回答は『ありがとう』という言葉。では、男性はなんだったでしょうか。答えは、『おはようございます』です。自分が、無視されていないとわかるからです」と西氏が紹介すると、会場からは驚きの声が上がりました。
この結果について、「おはよう」さえ言われない職場が珍しくないとして、「微笑むこと、すぐに返事をすること、そういったことだけでも心理的報酬を高めることができる」と、西氏は日常の些細な会話が重要であると述べました。
今後、ワーク・エンゲイジメントを高めるために期待されているソリューションのひとつとして、スマートメディカル株式会社の下地貴明氏が、「声からそのときの感情を定量的に測る」音声気分解析技術を紹介しました。
実際に下地氏が解析用のPCアプリを起動し声を発すると、スクリーンに喜び、怒りなど4つに色分けされた気分の解析結果がリアルタイムで表示されました。スマートメディカル株式会社では、その技術を元にスマートフォンアプリを開発し、手軽に音声から気分を解析し、その日の「げんき度」として数値化するアプリを提供しており、このアプリは、現在、接遇や接客業の企業に多く利用されています。利用されている企業から、従業員全体の「げんき度」が高いとデイリーの売上も増加するという結果が出ているそうです。
サーバに個人のデータを集約して、従業員全体の推移を測ることも可能ということで、「従業員のモチベーション状態が企業の業績に直接かかわっているのではないか。研究が実を結べば、会社全体としてのワーク・エンゲイジメントの尺度となりうる」と下地氏は今後の発展を語りました。
西 大輔
Eng@WAコンソーシアム 幹事/国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター
医学博士、精神科医、産業医。国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所室長。1000人を超える自傷・自殺未遂者と面談した経験から予防の重要性を強く感じ、うつ病などの精神疾患の予防をテーマとした研究で多数の学術論文を出版している。また、講演や執筆を通してうつ病の予防法を伝える活動も展開している。著書の『うつ病にならない鉄則(マガジンハウス)』は、「とても分かりやすい、読みやすい」「すぐ隣で著者が話してくれている感じがする」「ホンワカした気持ちになれる一冊」と多方面から好評を博している。
下地 貴明
スマートメディカル株式会社 取締役・ICTセルフケア事業本部長
同社にて、人々のこころとからだによりそい、パーソナルなデータに基づいた健康サービス・コンテンツの提供や新しい技術開発を担当する。東大を含め産学連携をもとに開発された声から感情を認識する技術「こころ コンパス®」は、コールセンターの離職率の改善やNTTドコモ社の被災地支援事業の復興支援に活用されている。東京大学 保険・健康推進本部 研究員。
山田 雄介
株式会社オカムラ WORK MILL編集長
中学・高校時代を米国で過ごし、大学で建築学を学び、人が生活において強く関わる空間に興味を持つ。住宅メーカーにて住環境のプロデュース企画を手掛け、働く環境への関心からオカムラに入社。オフィス環境の営業を経て、現在は国内外のワークトレンドのリサーチやオフィスコンセプトの開発、メディアの企画、編集と幅広い業務に携わる。
ワークプレイス
2021年10月7日に開催した本ウェビナーでは、効率重視のオフィスを「工場」、ドキドキワクワクするようなオフィスを「遊園地」に置き換えて、今後オフィスデザインに求められる要素を最前線で活躍するスペースデザイナーとともに探りました。
詳細を読む
ワークスタイル
酷い不健康は嫌だけれど健康のために日頃から何かしらの努力をする気にはなれない。そんな私にとって今回の「ゼロ次予防」は渡りに船。まさにうってつけのアプローチです。無意識のうちに健康になるための行動を促してくれる「ゼロ次予防」。こんなありがたい話はありません。今回はゼロ次予防のアプローチから、オフィスづくりについて考えていきましょう。
詳細を読む
ワークスタイル
組織が成長し存続していくためには多様性が必要です。でも最近では多様性「ダイバーシティ」があるだけではなく、それが活かされている状態「インクルージョン」をつくらなければいけない、と言われていて、両者をセットにした「ダイバーシティ&インクルージョン」という言葉を耳にする機会が増えてきています。今回は日本企業ならではのダイバーシティ&インクルージョンのあり方をご一緒に探っていくことにしましょう。
詳細を読む
「これからのはたらく」を知りたい方、考えたい方、つくりたい方、相談したい方、見学したい方、仲間が欲しい方・・・
もし少しでも「ピン」ときたら、お気軽にSeaにおたずねください。