REPORT

2016.12.06

“SEA DAY 02” 開催レポート
[Day2-01] ひとりひとりの能力と可能性を挽き出す働き方

ひとりひとりが、もちまえの能力や可能性を最大限発揮して自分らしく活躍できる働き方が実現できたなら。そんなテーマを掲げたDay2初回のセッションでは、シリコンバレーの最先端の働き方や国内外の取材経験から日本企業の組織・人事への問題提起に発展していきました。

インスピレーションスピーチ

■ゲスト

ロッシェル・カップ(ジャパン・インターカルチュラル・コンサルティング社 社長、『日本企業の社員は、なぜこんなにもモチベーションが低いのか?』 著者)
谷本 有香(フォーブスジャパン副編集長 兼 WEB編集長)

■モデレーター

遅野井 宏(株式会社岡村製作所 WORK MILL編集長 エバンジェリスト)

「ひとりひとりの能力と可能性をどうやって挽き出すかは、各組織にとって非常に大きな課題」と話し始めたロッシェル氏。この課題を解決するためには、日本企業の中に「生産性という視点」が必要である点、多くの時間を費やしてしまう理由を、日本とシリコンバレーを比較しながら紹介していただきました。

米国の自宅から参加者に語りかけるロッシェル氏

生産性はなぜ必要なのか

日本でもよく耳にする生産性とは「何を」、「どのくらいの時間をかけておこなったか」を測るもの。私たちは生産性を上げるために、沢山の結果を限られた時間の中で出すこと、言い換えれば、ある結果を出すためには長時間労働をしないということが求められます。ロッシェル氏は「生産性は“効率”ではありません。ピーター・ドラッカーの言葉を引用すると、生産性とは『正しいこと、必要なことをすること』です。あまり役立たないことを効率よくおこなうことほど生産性の無駄なことはありません」と語りました。日本人は勤勉に働くから生産性が良いだろうと考える人が多いが、先進国の中では一番低い国だという調査結果を紹介しました。

なぜ生産性が必要なのか。ロッシェル氏は、「生産性とは経済全体から見ると“成長”のことです。特に日本はこれから人口が減るので、数ではなく個々が出しているアウトプットを成長させることだけが経済成長につながる」。そして、「企業から見ても熟練された人材も非常に限られているし、個人にとっては1日が24時間と限られているのでこの時間をどのように使うかが課題」と言います。

シリコンバレーでよく使われている言葉は「Be lazy」。この言葉は最低限の努力で最大の結果を出すことを意味します。つまり、「賢く働く」がキーワード。シリコンバレーでは、大企業は生産性が高いが、いずれも元はベンチャー企業であった歴史があります。ベンチャー企業は時間も限られていて、とにかく早く何かをやるという気持ちが強いので、優先順位をつけるのが非常に上手だそうです。ロッシェル氏は、シリコンバレーでは「仕事も努力して、自分の人生の楽しみ自体もつくってバランスのあるライフスタイルが重要だという考えが強い」と説明し、「何かに手をつける前に“これに時間を使う価値があるかどうか”を深く考える習慣をつけ、優先順位をつけることが大事だ」と語りました。

生産性が重要である

多くの時間を費やしてしまう4つのポイント

続いて、ロッシェル氏は日本人が仕事に多くの時間を費やしてしまう理由として、4つのポイントを述べました。

①    会議

日本では、ダラダラ長引くことが多く、明確な目的のないままおこなっていることが多い。また、全員参加を重要視し、人が多過ぎてディスカッションに参加しない人が出てきている。それぞれ移動時間もかかり非常に無駄であるので、生産性が非常に低い。

シリコンバレーでは、立ちながら会議、歩きながら会議というやり方でダラダラを防ぎ、必ず明確な目的とアジェンダをもって会議をおこなう。必要な人だけが参加し、ほかのメンバーは議事録で共有してアクションプランも作っておく。そしてWEB上の機能を用いて、遠隔的に会議をおこなうことで効率よくしている。

②    方針、手続き、書類、社内ルールといったような役職的なこと

日本では、ビジネスをする際いろいろな対策が必要になるので、その度に新しいルールや手続きをつくる。これが時間の経過とともに蓄積してしまい、社員の限られた時間を消費している。また、人は信頼できないから人を管理しましょうという考えの「性悪説」をもとにルールやポリシーがつくられている。

シリコンバレーでは、企業文化のリーダーのNetflixを例にすると、できるだけ方針を少なくしている。方針があるとしたらできるだけシンプル。例えば、従業員が何日でも休暇をとれる、子どもが産まれた場合最初の1年は無限に有給休暇をとれるようにする。そして、出張の関連経費のポリシーは「Netflixにとって良いことをする」という一つのフレーズ。社員を一人の「成熟した大人」という姿勢をとっている。

③    コミュニケーションとコーディネーション

日本では、社員のメールの使用量が多いので受け手が対応できない状況が生まれている。そしてスケジュールが会議や電話で埋まり、仕事をする時間がない。また、日本の管理方法をみると上司のマイクロマネジメントや「報・連・相(報告・連絡・相談)」が期待されており、上司と部下の間のコーディネーションが非常に多い。

シリコンバレーでは、ソフトウェアを使ってできるだけコミュニケーションを効率化。ウィークリーレポートなどをオンライン化し共有する。部下や周りの人への継続的なフィードバックをするためのオンラインツールもよく使われている。

④    時間外勤務

日本では、残業するのがあたりまえという雰囲気。与えられている仕事の量が、与えられた時間にマッチしていない。そして、可能な時間をすべて占めるように仕事が拡大。仕事に終わりがない時代に生きている。

シリコンバレーでは、仕事が好きで長く仕事をしている人もおり、残業時間は人それぞれ。時間管理や個人の生産性が注目されている。高域なフレックスタイム、自由な自宅勤務、どこからでも働ける働き方が人気。また、よく耳にするのが“ワークライフブレンド”。これは、ワークバランスは不可能かもしれないが、うまく組み合わせることによってうまくできる(ブレンド)といった考え。例えば「夕方5時に帰って家でご飯や子育てをしたあと家で仕事をする」というように、うまく時間を組み合わせて(ブレンドして)行うこと。

たくさんのインタビューをされてきた谷本氏

ありたい自分で働く ~自分至上最高の今を生きる~

「仕事=志事」。どんな人でももともと志が高い人はいない。谷本氏は「早い段階で“自分自身の能力をどう世の中の人々に使うか?”という志を持ち始めた人が成功者になっていく」と言いました。また、スティーブ・ジョブズのスピーチ『今日が最後の日であるならば、これからあなたがすることは本当に今日しなければならないことですか』を引用し、「あとどれくらい生きられるかわからないからこそ、今日何をするか今何をするかをきちんと決めることが重要だ」と述べました。

とは言っても、なかなか普通の人間が世の中に貢献していく姿を描くのは難しい。そこで谷本氏が紹介したのが「仕事=私事」という考え方。谷本氏が見てきた成功者は、自分自身の興味があることややりたいことを仕事に変えていくことで、結果として世の中を変えていったそうです。

「『仕事=私事』にするためには、例えば自分の転職や適職を考えていく必要性があります。自分のやりたいことを一生懸命やって自分自身を殺さないで生きてきた先に天職と適職があるのではないでしょうか」と谷本氏は語りました。

「仕事は人に仕えること、つまり誰かが評価して初めてお金になったり貢献というかたちになったりします。あなたが好きなことをやっていた先に、何人もの人を助けているかもしれません。そうすると、あなたの仕事は結果的に天職だったよねとなります。つまり他人の評価軸が重要なはずです」と言います。

谷本氏は跡見学園女子大学で教鞭をとる中で学生から、「どんなふうに天職を見つければいいですか」と質問され、「あなたが一番“ありがとう”と言われることをやりなさい」と答えたそうです。「自分自身が得意なことが、一番“ありがとう”と言われるポイントで、それを自分自身が見つけることと、上司や人事がどうやって個人の特性や個人が一番“ありがとう”と呼ばれる才能、能力を見出すかという2つが重要だ」と語りました。

谷本氏おすすめの本

会社の役割

「今まで個人は会社に与えられたことをやるという歯車的な位置づけだったと思いますが、各個人が最大限のパフォーマンスを生み出す中で、その総和が会社の価値に成り代わっていく、それを会社が意識する必要があると思います」と会社の課題を挙げました。

今流行りの言葉で「ホラクラシー」や「コレクティブジーニアス」という言葉があります。ホラクラシーは、上下の関係がなくみんなが最大限に能力を発揮できるようにフラットな組織を作ること。「場をつくりましょう」と谷本氏は主張します。「日本人はよく空気を読むんですよね。会議に出ても自分はペーペーだから言っちゃいけない、良いプランがあっても上司には言いづらいような空気感がある気がします」。これが主悪の根源だと語ります。

「相手が上司であれ、リラックスしてある意味無礼講で自分が思っていることを話すことができるかどうか、ここが今後の日本が勝てるかどうか大きく左右しているのではないか」と主張しました。

最後に、谷本さんは1冊の本を紹介しました。『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)―100年時代の人生戦略』。この著者であるアンドリューさんが口を酸っぱくしていたのは「仕事≠あなた」。「仕事で得たスキル・意識・経験はあなた自身を形成する非常に大事な要素です。仕事じゃなくてあなた自身が輝けることをしなさい」。そして、「仕事は人生の一部であるのだから、能動的に主導的にやってみてはどうだろうか」と言っていたそうです。

「積極的に学ぶこと、例えば学校に行ったりほかのいろいろな地域に行って学んだりすることによって、自分がもっと大きくなる。その結果が総合和として、あなたの仕事と会社を輝かせることになる」と谷本氏は語り、「ポジティブに楽しんで人生を進んでいくということが結果的にあなたの働き方を輝かせるのではないか」と締めくくりました。

インタラクティブセッション

日本の働き方について振り返る

日本に今必要なこと

遅野井:日本の会社って会社の枠にはまって自分らしさを失っているのではないかと感じます。そのことに関してお二方はどう感じていらっしゃいますか。

ロッシェル:日本は会社を家族として考えるという習慣が非常に強いですね。私があるべきだと思うのは、皆が自主性をもって、ある程度の独立性をもって会社にいるのが良いのだと思います。自分の将来のゴールを自分で考え把握することが大事だと思います。

谷本:私は、日本の風潮として「変わりたくない」という考えがDNAに刷り込まれていると思います。あと、嫉妬ですね。この2つによって異分子の方々たちが潰されています。これは日本の最大のロスだと言えます。変わることに対してブロックをつくりがちな空気感をなくしていくことが重要だと思います。

遅野井:上層階やオフィスの区切られた中に社長室があると、上級の人をあえて遠ざけていると感じるように思います。このことは上下関係を自分たちで作ってしまっているように感じます。

谷本氏:形式や空間だけでなく、自分の考えがいかに吸収されるか、いかに反映されるかも大きいと思います。例えば、社長室があったとしても、自分の意見が社長室に届いていたという実感があれば、社員のやる気はなくならないと思います。

登壇者の話を聞き入る来場者

ジョブディスクリプションが必要

遅野井:日本は失敗をなかなか許さない制度やルールがベースにあるのではないかと思います。失敗するとレッテルを張られて、復活の機会も与えられないということもあります。イノベーションや成功は低い確率の中で石橋をたたいてようやく何年後かに成功が出るものですが、出るころには時代遅れになっているということがジレンマとしてあると思います。

ロッシェル氏:シリコンバレーでは失敗は成功のもとという考えが強いですね。日本は怖さゆえに新しいことができません。

谷本氏:上司はどんなときでも責任をとって部下になんでもやらせればいいのに「失敗するな」と言います。これは失敗を許さない文化ではなく、上司が失敗したくない文化である気がします。会社にきちんと責任をとれる人がいるかどうかが重要です。そういう人に、部下はついていくと思います。尊敬できる上司になるということは、人間的な問題も私は大切だなと思います。

遅野井:責任がとりにくいのは、責任をとる範囲が不明確でグレーだからですかね。日本はジョブディスクリプションがないですし、微妙にお互い責任をとりたくない領域を増やしている気がします。

谷本氏:ジョブディスクリプションがあれば断ることもできると思います。ただ部署の責任や大きい仕事をするときは、明らかに責任の所在がわかるじゃないですか。そこはきちんと腹が座った方を上にあげられるかたちにしたほうがいいと思います。

ロッシェル氏:もっと仕事の内容を明確にして、そして誰が適任なのか言えるようにしたほうがいいですね。

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