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REPORT

2016.12.05

“SEA DAY 02” 開催レポート
[Day1-03] オープン・イノベーションを推進する仕組みとデザイン
~ヤフーのコワーキングスペース「LODGE」と共につくる未来~

オフィス移転を機に働き方を見直し、イノベーションの生まれる土壌をつくろうと考え生み出されたヤフー社のコワーキングスペース『LODGE(ロッジ)』。LODGEの誕生秘話からオープンイノベーションの場づくりの可能性について探りました。

インスピレーションスピーチ

■ゲスト

植田 裕司(ヤフー株式会社 スタートページ事業本部開発1部 部長 兼 オープンイノベーション室コワーク推進部 部長)
松井 創(株式会社ロフトワーク プロデューサー)
吉田 裕美佳(FLOOAT,Inc. デザインディレクター)

■モデレーター

山田 雄介(株式会社岡村製作所)
日比野 靖彦(株式会社岡村製作所)

新しい「働く場」について話す山田

イノベーションの土壌と働く場

「働く場というものは時代とともに変化している」と話し始めたモデレーターの山田。働いている人の多くは、もともとファクトリー<工場>で“labor”として働いていたのに対し、オフィスで“Worker”として働くものに移り変わっている。

山田は、日本の問題として「個人が集まり組織が発生したときに、その組織を守るために周囲に境界をつくり、その外部から新しいコンセプトを導入して、それを精緻化し自分たちの論理に合わせたものに改変するという傾向がある。組織の存続が重大事項なので、みんなで境界の内側を向いてしまう」と指摘。日本でイノベーションが生まれにくい理由は、「企業が重視し、評価するポイントが『どれだけ儲けるか』になっており、『どれだけ面白いことをやってみせるか』が後回しになっていること。遊び要素の少なさや、従業員の気持ちの余裕のなさから発生するサバイバルコスト(拘束時間)が高いことなどが原因である」と言います。

そのような中で、次世代の知的生産現場としてつくり上げられたのがヤフーのコワーキングスペース『LODGE(ロッジ)』。普通のオフィスは、執務室が主なスペースを占めているのに対して、『LODGE』では、執務のスペースを半分にし、その分受付やロビーを広げ、さらにカフェのような生活支援的要素がある空間が取り入れられている。山田は「カフェのような空間に執務室や会議室の機能を盛り込むことができるのではないかと考えられている」と語ります。また、「ICTの進化によりリモートワーカーやテレワーカーが増え、オフィスで仕事をする意味がなくなってきている。そういった外部で仕事ができるノマドワーカーのような人たちも、ヤフーのLODGEのような開かれたオフィスに来るのではないか」と言います。

 

LODGEについて語るヤフーの植田氏

未完成な空間”LODGE”

LODGEの責任者である植田氏は、「LODGEで社内と社外の人間がさまざまに関わりあって課題解決できればよいと考え、インターネット屋のヤフーらしく、ネットと同じく無料で、オープンで、そして未完成な空間を謳っている」と言います。そして、「LODGEを通して人の行動を変えるような“!”(ビックリ)なサービスを生み出し、未来のあたりまえを多く生み出していく空間にしたい」と考え、名前をLaboratory・Open resource・Do or Demo・Give and Give・Eat Japanの頭文字を取って『LODGE』としたそうです。実験的で、物理的なリソースを提供し、すぐに想いを発信でき、与え続ける精神を持ち、地方の食材を食べながら、新しいアイデアを生み出す、そんな場にしていきたいという意味が込められているそうです。

「11月にオープンしてからは、曜日を問わず大盛況で、ポジティブな意見が多く寄せられている状況。すでにいくつかコラボイベントも生まれていて、イベントの可視化とオープン化により興味を持った人が増えた」と言います。

 

 

LODGEのコンセプトについて話すロフトワーク松井氏

リアルポータルとしての空間

自社でコワーキングスペースや共創空間をつくって、企業のオープンイノベーションを推進する取り組みをし、LODGEのコンセプトメイキングに携わったロフトワークの松井氏は「今回のプロジェクトは今までヤフーがインターネットポータルで人と人をつなげてきたように、それを現実世界で行うリアルポータルをつくろうというコンセプトでスタート。期間が短い中、全10回、毎回ワークショップ形式でアイデアの発散と収束を繰り返してまとめていきました」と当時を振り返ります。

ディスカッションや合宿などを通して「一緒に向かうためのアイデアを共有できる場所」で「(山の)頂上に到達した人も、そうでない人も、また何度でも立ち寄れる」そんな場所にしたい、と次第に方向性が定まっていったそうです。そして、松井氏は、LODGEが利用される象徴的なシナリオとして

 

1、 ふらっと立ち寄る

2、 アイデアや悩みを打ち明ける

3、 計画を練る、地図を描く、発表する、準備する

4、 挑戦する、何度でも挑戦する

などを考えたことを挙げました。これらを実現するために、

 

1、 “OPEN COLLABORATION”として自己表現ができる場所

2、 見えないが見える化できる場所

3、 異文化が集まり交差する場所

4、“CONDITION”を整えるために、短期集中&気分のリフレッシュ(=心)や自己組織化(=技)ができ、おいしい(=体)ものが食べられる場所

5、“HACKABLE”として、動かせて固定せず、継ぎ足せ拡張でき、飛躍でき直感やひらめきが生まれる場所

 

にしたいと語りました。

 

 

デザインの試行錯誤を語るFLOOATの吉田氏

常にアップデート

オフィスデザインをメインに手掛け、今回LODGEのデザインを考えたFLOOATの吉田氏。「(これまで議論されてきた)コンセプトを広い空間にどう落とし込んでいくかが難しかった」と語ります。大きく以下の3つの空間要素で表現しようとしたと言います。

 

1、「未完成」 – 常にアップデート中

2、「動く壁」 – 家型家具

3、「DIY家具」 – 「Opendesk」

 

これらの要素を毎日変化するまち並みのようなものとしてLODGEの中に表現しようとし、それを実現するため、1人で来ている人や2、3人で来ている人でも、居心地が悪くないように路地裏をつくったりもしたそうです。また、常にアップデートされるようにし、ゴールは見えていないが、試行錯誤を繰り返して場をつくっていく余白を残すようにし、これからの使い勝手によって何にでもなりうる変化を受け入れる寛容さを意識したと言います。

「コンセプトの中で“動かせて固定しない”というものがあったが、広いスペースの中で、すべての家具を動かすと強弱がなく閑散としてしまうと考えました。発想を転換させて、空間そのものもLODGEであるが、それぞれのグループが集まってLODGE空間をつくり出すと考えた」と語ります。その結果が、壁を動かすことで「人が集まるまち並み」となるようなデザイン。「壁の組み合わせが空間やまち並み、路地裏をつくり、家型の家具を組み合わせてプロジェクトルームをつくる」と吉田氏はいいます。また、「決まりきった家具よりDIY家具を置くことで未完成感や作業空間らしさを出した」と言います。吉田氏は「実際の未完成感や作業空間らしさについては、実際に中に入ってみてどういう空間か感じていただきたい」と締めくくりました。

 

インタラクティブセッション

問いかけに真剣に応える登壇者

ワンスペース・マルチファンクション

山田:今回のプロジェクトをおこなって良かった点や今までの経験が活きた点がありましたら教えてください。

植田氏:私は普段はアプリのエンジニアをしているのでコワーキングスペースで働くことがあまりありませんでした。そこで、コワーキングスペースがどういう使われ方をしているのかを知るために、半年間くらいほぼ毎週さまざまなコワーキングスペースの現場を見ました。未経験者なのでロフトワークという空間設計の有識者と関わって仕事ができたのは大きかったと感じます。

松井氏:私が意識したのは場の目的や用途を限定しないこと、「ワンスペース・マルチファンクション」を掲げています。未来がわからない中で固定してしまった瞬間に、変えられないリスクが大きくなってしまうのでフレキシブルさが大切だと感じます。

吉田氏:私は空気感を共有して議論するために、もっと最初の段階からプロジェクトに参加したかったと感じます。

山田:次に、社員の方や社外の方を巻き込んでこの場を活性化させていくために、工夫した点はありますか。

植田氏:社外の方にどんどん来てほしいと思っていたので、外部の方に情報を先出ししたほうがおもしろいかと思い、あえて社内にはメッセージングせずに進めておりました。そして、DIYのつくる家具を社員と一緒につくりました。一緒にその場をつくりあげるということに巻き込んで、自分ごと化するということが大事かなと思います。

松井氏:雑誌の編集と同じようになるかなと思いました。サポートするメンバーが必要なので、ヤフーの社員の中で常に外とやりとりをしているようなメンバーに協力してもらえる体制を作ったのが大きいと感じます。

LODGEのコンセプトが現実になった瞬間

コラボレーションの芽生え

山田:それでは最後に、運用面でもデザイン面でもLODGEで起き始めている予期せぬ出来事があれば教えてください。

植田氏:正直に言いますと、こんなに多くの人が来てくださるとは思っていなくて運営していくのは大変ですが、この永田町にやってきてくださるのは嬉しいです。

良かったなと思うのはLODGEという場所を通じて、社内の事業といろいろなところでコラボレーションが生まれています。一緒にプロジェクトを進めたり、来てくださった方を採用につなげたり、そういったコラボレーションの種というのが、意外にも早く開始1ヶ月と少しの段階でもポコポコ生まれているところですね。

松井氏:私も休日に個人的にLODGEを使っていたら、知っているベンチャー企業のメンバーが3人くらいで使ってくれていて、狙っていた通りに使われているなと思い、言葉で描いていた空間が実際になっているなと感じています。

吉田氏:来るたびに変わっているというのが、さすがヤフーさんです。ですが、前の事務所から持ってきたものはなくしたほうが良いかもしれません(笑)。

山田:β使用期間中という段階で、かなりいろんなことが起きているということで、その中にいかに社員を巻き込んでいくか。社外に業務委託して任せてもいいが、社内で運用していくうえで、いかに社内のコミュニケーターと今後どうしていきたいかを一緒に考えていくことが重要になってきそうですね。

アイディアを持ち帰りたい

効果的な情報発信

参加者:建築関係のことをやっていて2点ほどお聞きしたいです。建築はユーザーの意見を聞きます。そうすると面積が足りなくなり、皆それぞれの分捕りあいみたいになってしまいます。今回社内にあまり発信をしないで使いこなしていることは、オフィスがフリーアドレスだからなのでしょうか。また、一般的に移転するときは前より広くなるというようなプラスがありますが、今回の場合はどのようなプラスがあって移転したのか、どのような不満があって移転したのかについて教えてください。

植田氏:不満はありますが、それを消すための発信はしていなくて、引っ越しを境に働き方を変えようという前向きな発信を何度もやりました。チェンジリーダーとして、各カンパニーごとの部長が隅々までメッセージを伝えるということをやっていました。また、社員に2ヶ月間の仮運行を利用してLODGEで働いてもらい、社内のミーティングで使える、使ってよいということが浸透してきたところで、今度は逆に「このLODGEというのは社内の人と社外の人の交流に使うものである」ということを上からのメッセージとして落とすことで、効果的に発信しました。

 

REPORTイベントレポート

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