REPORT

2024.10.21

【イベントレポート】“旅する”Sea 「ファンがファンを連れてくる、一生役立つ共創空間アイデアのつくりかた inオカムラ Co-Riz LABO」を開催しました

今回のゲストは、2023年「日本DX大賞」を受賞し、登山地図GPSアプリ「YAMAP(ヤマップ)」を運営する株式会社ヤマップの小野寺洋さん。「ファンがファンを連れてくる共創アイデア」について、じっくりお話を伺いました。2024年10月21日に開催したイベントのレポートをお届けします。

働く環境を変え、働き方を変え、生き方を変えることをテーマに掲げるWORK MILL(ワークミル)プロジェクトでは、「はたらく」の多様な可能性を探るイベントを開催しています。今回は、ゲストに2023年「日本DX大賞」を受賞し、登山地図GPSアプリ「YAMAP(ヤマップ)」を運営する株式会社ヤマップの小野寺洋さんを招き「ファンがファンを連れてくる共創アイデア」について伺いました。

そもそもなぜいま「共創」が重要なのか?

現代社会は急速な変化と複雑化をしており、新しいテクノロジーやビジネスモデルが次々登場しているなか、企業の競争は激化し、企業が単独で問題を解決することが難しくなってきています。そうしたなかで、有効な手段が「共創」です。

 

共創により企業は外部の企業や顧客などの知見・経験を取り入れることができ、新たなアイデア創出のほか、顧客や利害関係者との信頼関係を築くことで顧客満足度を向上させ、収益改善に期待ができます。

 

このように企業経営にとって重視される共創ですが、「共創の仕方が分からない」「共創からどのように事業収益につなげたら良いのか?」「社内に共創文化がなく、社内承認が得られない」などの課題をよく耳にします。そこで今回、顧客を軸にあらゆる共創サービスを展開し収益にも繋げている株式会社ヤマップの小野寺洋さんを招いて、共創企画の立ち上げ方からヤマップの成功事例を多数紹介いただきました。イベント後半では株式会社フジッコで共創を担当している豊田麻衣子さんが聞き手となり、共創担当者のリアルな課題をトークセッション形式で質問しました。

YAMAPとは?

YAMAPは、電波が届かない山の中でも、スマートフォンのGPSで現在地と登山ルートがわかる、登山を楽しく安全にするアプリ。国内No.1(※)の登山アプリ利用者数を誇る登山者コミュニティを軸にした、登山・アウトドアに関する事業を展開しています。ユーザーが日常と登山を繰り返していくライフスタイルの中で、人と環境のWell Beingが向上していく「YAMAP Well Being Life Journey」の流れにもとづき、ユーザーに寄り添ったサービス・体験がオンライン・オフラインのそれぞれで設計されています。

※2024年10月 登山アプリ利用者数調査 (App Ape調べ)

 

YAMAP Well Being Life Journeyを軸に、「地球とつながるよろこび。」のきっかけを人々へ届けることで、人と地球環境がともに豊かになる世界の実現を目指している。

YAMAPが展開する共創

① CX成功の鍵は「デ―タ活用」

まずYAMAPの最大の特徴として、登山時に自分が歩いたルートや標高を記録し、撮影した写真をアルバムに保存して他の登山者にシェアできるという特徴があります。こうした機能特性から、サービスを通してユーザー同士の登山コミュニティが生まれ、広がり、YAMAPアプリ利用者は460万人と国内の登山アプリでトップシェアを誇ります。ユーザーが増えビッグデータが蓄積されることで新しいサービスのアイデアに繋がるのだそう。つまり、顧客との共創であるファンマーケティング強化によりユーザー行動を科学することが可能となり、そこから「売上増」に導くヒントを得ることが可能に。そしてビックデータをあらゆる視点から多角的に分析することで、ユーザー自身も気付いていないユーザーが本当に求めているものを見出すことが重要だと小野寺さんは語ります。

顧客が欲しいものではなく、顧客が求めているものをビッグデータ分析により見出すことが大切。

② ユーザーの行動データから売上増を実現

例えばビッグデータ活用によりユーザー自身も気付いていない、ユーザーが求めているものを提供した事例として「コロナ禍の登山傾向の変化」を紹介。ユーザーデータをもとにコロナ前後で比較したところ、遠方への外出が難しくなったことから近場の低い山の登山者が増え、さらに山小屋泊が減りテント泊が増えたことが分かりました。そこでYAMAPでは日帰り登山用の小型バックパックの仕入れを強化したところ、予定の5倍の販売に繋がりました。

ユーザーの行動データをもとに販売商品の強化を図ることで売上増に。まさに共創から収益化を実現。

③ ユーザーとの共創が社会課題を解決する!?

登山者の大きな課題のひとつに遭難リスクがあります。警察庁の発表した「令和5年における山岳遭難の概況」によれば、毎年、1年間の山岳遭難者数はおよそ3,000人前後で推移。そしてその遭難理由で最も多いものが「道迷い」です。そこでヤマップでは、山で道に迷う人をゼロにしたいと考え、2021年から毎年、“日本一道迷いしやすい登山道”を抽出して発表。これはYAMAPユーザーの道迷い注意投稿をベースに作成したもので、ユーザーがYAMAPを通して道迷いの遭難リスクを共有・回避できるようにサービス提供を行っているほか、自治体や地元団体にも働きかけ、道迷いしやすい登山道にピンポイントで案内板を設置してもらい、結果的にその箇所で道迷いする人をゼロにしました。まさに、ヤマップと登山者、そして地元団体の三者が共創した結果、社会課題解決につながっています。

 

また、YAMAPユーザーどうしが電波の届かない山の中ですれ違った際に、お互いがすれ違った位置情報、つまり、北緯何度か東経何度かをBluetooth(ブルートゥース)によって交換。どちらかのアプリがオンラインになった際にその情報がまとめてサーバーにアップロードされる仕組みになっています。しかも、これはすれ違った当人どうしだけでなく、それまですれ違ってきた人全員の情報も同時に交換するため、もしその中の誰かが山の中で遭難した場合、最後にすれ違った位置がわかり、捜索範囲をかなり絞り込むことができ、結果的に早期救助につながります。

 

このように、YAMAPユーザーが増えれば増えるほどに安全網が強化され、YAMAPを通してユーザーの道迷いの登山リスクを回避でき、万一遭難した際も早期救助が可能に。小野寺さんは「こうした共助のサービス設計を意識することで事業としての売上増はもちろん、社会課題解決にも繫がっていきます」と話します。

YAMAPユーザーが相互扶助の関係を構築することで遭難者減という社会課題解決に繋がっている。

ヤマップ小野寺さん×フジッコ豊田さんの共創トークセッション

イベント後半では株式会社フジッコの豊田さんから小野寺さんへ共創担当者が抱えるリアルな課題を相談。

 

たとえば「共創のためのアイデアの紡ぎ方のコツとは?」という質問では、「あえて自分の興味関心が無い分野の情報を意識して取るようにしている。普段触れている情報では偏ってしまうので、共創のイノベーションを促すためには自分のテリトリーとは異なるインプットが重要」と小野寺さん。「ファンマーケティングで重要な承認欲求をあおるコツとは?」との質問には、「ユーザーがもともと持っている潜在的感情(YAMAPの場合には、山登りの利用者どうしで助け合いたい等)を昇華できるサービスプラットフォームを作ること」と回答。共創に関する悩みに対して具体的なアドバイスをもらい、イベント参加者からも満足そうな表情が伺えました。

フジッコでインナーブランディング、共創企画を担当する豊田さんからリアルな課題を小野寺さんに質問。

最後にWORK MILLの岡本さんは「三方よしを実現できるのが共創の醍醐味。小野寺さんからたくさんの共創事例を伺うなかで“インプット”の重要性を再確認しました。日常のなかでもインプットを意識して習慣化していくことで共創の幅を広げていきたい」と話しました。

左から、岡本さん、小野寺さん、豊田さん。
イベント参加者の皆さんと記念撮影!

事業を通して顧客に新しい価値を提供し、社会課題解決に結びつけるだけでなくそこから収益化に繋げていく。そうした企業姿勢は顧客やステークホルダーにも伝わることで、「この企業を応援したい」「知人にも紹介したい」というコアファン層から新しい新規顧客獲得に広がっていく…まさにこれからの時代に必要とされる事業運営のあり方だと感じました。

WORK MILLでは「はたらく」の多様な可能性を探るべく、今後もあらゆるイベントを開催していきます。気になるイベントがあればぜひご参加ください。

 

テキスト:赤星 昭江
写真:株式会社ATOMica、株式会社オカムラ

 

 

- 登壇者

小野寺 洋(おのでら ひろし)

株式会社ヤマップ 安全推進チーム長

佐賀大学理工学部を卒業後、「通信教育(ベネッセコーポレーション)」「飲料・食品(ネスレ日本)」「化粧品・食品(JIMOS、協和)」などのメーカーで、ダイレクトマーケティングに従事。広告企画、販売手法開発、共同事業開発、M&A等を手がける。2019年7月より、株式会社ヤマップにて登山をテーマとした「ファンベース」型の消費者コミュニケーションを指揮。ロケーション、タイムリー、インタラクティブを駆使したアプリマーケティングおよびPR活動を推進。趣味は温泉、写真撮影、山登り。佐賀県出身。

豊田 麻衣子(とよだ まいこ)

フジッコ株式会社 コア事業本部 兼 広報室

2002年防衛省海上自衛隊入隊。広島県江田島市にある海上自衛隊幹部候補生学校を経て、契約・法務・補給・監察・監査などの任務を遂行。2017年にフジッコ株式会社に転職。働き方改革、企業理念再構築・浸透PJに参加し、組織風土改革を推進。社員食堂や社内報の改革、健康経営の推進など、社内にまん延したこれまでの当たり前を体当たりで改革してきた。現在は、インナーブランディング、食育イベント等を担当し、社内外のファンづくりを実践中。

岡本 栄理(おかもと えり)

株式会社オカムラ WORK MILLコミュニティマネージャー

大阪市出身。関西学院大学で社会学を学ぶ。株式会社オカムラでは経理、営業事務、秘書を経て2017年6月よりWORK MILLコミュニティマネージャーに。関西の共創空間・Open Innovation Biotope “bee”において社内外をつなぐ、さまざまな「はたらく」にまつわるイベントの企画・運営を担当。2023年4月よりWORK MILL統括センターに異動。Open Innovation Biotope “Sea”を拠点に、より全国規模の共創を創発するリーダーとして活動中。「自然体でおもしろい」場づくりを大切にしている。楽しい場、おもしろい人が大好き!の、共創をライフワークにしたい人。大阪大学キャリアセンター招へい教員(令和3年-5年)
近畿経済産業局 大阪・関西万博を契機とした価値共創活動促進事業 委員 demo!expoボードメンバー
【イベント概要】
それ、ヤマップの小野寺さんに聞いてみよう!
ファンがファンを連れてくる、一生役立つ共創アイデアのつくり方
開催日時:2024年10月21日(月)19:00-21:00
開催会場:株式会社オカムラ Co-Riz LABO(東京都中央区京橋2-1-3 京橋トラストタワー11階)
オカムラのCo-Riz LABO。カフェスペースではいつもイベントが開催され、社員だけでなく外部との共創・交流でも活用されている。

今回の出張先「Co-Riz LABO」とは?

リモートで誰とも会わずに一人で仕事が完結できるようになった昨今、オフィスに求められる真の価値は「感情共有体験」ができることである。例えばフリーアドレス導入により、座席を自由に選択できるようになったが、その分チームへの帰属意識が薄れてしまわないよう、部署の拠り所となる場「BUSHITSU」が必要になる。シェルフややぐらを用いた仕切りは、チーム内の一体感を高め、同時にチーム間のコミュニケーションを促進する。また、超集中空間では、研究データを元に最適な室温や香り、音などが設定されており、誰にも邪魔されない最も集中しやすい環境で仕事ができる。多様な環境を用意し、ワーカーが各々のベストな環境を自ら『考』え、効『率』よく働くことができる、それが「CO-RIZ(考率)LABO」の在り方である。

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