REPORT

2016.05.26

働き方と組織の未来の「転換期」を創り出そう!
~対話の場から見えてきた、組織と個人の関係を見つめなおすエッセンス~

働き方が多様化し、働く場の変化も求められてきている中、これからの組織と個人の関係はどうなっていくべきなのでしょうか。
企業に勤める“組織人”でありながら、働き方を考える“個人”としても活動されている石川貴志さんに伺いました。

どう働き、どう生きるか

ゲスト:石川貴志(一般社団法人Work Design Lab)
モデレーター:庵原悠(株式会社岡村製作所)

一般社団法人Work Design Lab代表理事と、上場企業の経営企画部という2つの肩書きを持つ石川貴志さん。Work Design Labでは「イキイキと働く大人で溢れる社会、そんな大人をみて子どもが未来に夢を描ける社会を創りたい」というビジョンを掲げ、「働き方と組織の未来」ダイアローグセッションをはじめとする様々なイベント、勉強会を開催しています。

大手事業会社に勤める“組織人”でありながら、働き方と組織の未来について考える“個人”としても活動されている石川さんは、働き方と組織の未来像をどのように描いているのでしょうか。

一般社団法人Work Design Lab 石川 貴志氏

2つの肩書きを持つに至った2つの出来事

庵原:本日はどうぞよろしくお願いします。早速ですが、石川さんが様々な活動をされるに至った経緯を教えていただけますか。

石川:はい。まず、私が2つの肩書きを持って活動するに至ったきっかけとして、人生における2つの出来事があります。

1つ目は、17歳の時です。父の会社が倒産し、親戚の家を転々とする生活を経験しました。これをきっかけに、自分は、日本を元気にしたいというような、少し青臭いようなことに対してパワーがでるタイプだと感じ、就職活動ではそうしたことができる企業を探していました。そして、「世の中の仕組みを作ることができる」という観点でIT企業に就職しました。意外にも、IT企業にはITが苦手な人がいて、そういった人が、技術を活かした仕事よりも後輩育成をお願いしたときにとてつもないパワーを発揮するのを目の当たりにして、企業のプロジェクトにおける適材適所の重要性を実感しました。

そこで、社会全体の人材の適材適所を実現すれば、日本が元気になるんじゃないか、という考えから、人材サービス業界に転職しました。仕事を通して、人材の適材適所を進めていくうちに、徐々に、「ヒト」そのものに興味が湧いてきました。特に、教育や学生への関心が高まり、現在の会社に転職しました。現在の会社では大学向けのビジネスや、新しい学びの場の提供などに取り組んでいます。新規事業を担当し、大学教育と社会人教育をつなぐことなどを専門領域として活動しています。

2つ目の出来事は32歳の時です。初めて子どもが生まれました。子どもが生まれたことをきっかけに、社会性が増し、地域活動やボランティアに積極的に参加するようになりました。これまで一人きりだった世界が、妻や子どもを通して広がっていき、子どもや、孫世代のために、私は何が残せるのかといったことを考えるようになりました。人生におけるこれらの経験が、私の活動のルーツになっています。

 

「どう働くか」ではなく「どう生きるか」

組織と個人は「大人」と「大人」の関係へ

庵原:石川さんご自身の経験から、組織と個人の関係はこれからどのように変化していくと思われますか?

石川:組織と個人の関係性について、私は、いま現在の「大人(組織)」と「子ども(個人)」の関係から、「大人(組織)」と「大人(個人)」の関係になっていくのではないかと思っています。「大人」と「子ども」の違いは、成熟度ですよね。見えない価値が見えるかどうかです。個人の能力が高まる中で、組織と個人の関係が対等になり始めていると思います。

未来の働き方を考えるということは、「どう働くか」だけでなく、家族、個人、組織の様々な関係性の中で「どう生きるか」を考えることが欠かせなくなってきます。人生における見えない価値をどう見出していくか、ということです。色んな活動をしていると、頻繁に「人生という貴重な時間を何に使うのか」という問いに帰着します。何事も自分事として引き付けないと、新しいものを生み出せなかったりするので、私以外でも、新規事業担当の方は、会社のミッションだけにとらわれず「なぜ働くのか」といった根本的な問いを常日頃考えていることが多いような気がしています。働く人の中でも、こういった考え方はどんどん広がっていくのではないでしょうか。

 

ワークデザインのイメージについて語り合う参加者

庵原:続いて、Work Design Labでの活動について詳しく教えていただけますか。

石川:Work Design Labは、現在6名で活動していて、それぞれ本職があります。ビジョンとして、「イキイキと働く大人で溢れる社会、そんな大人を見て、子どもが未来に夢を描ける社会を作りたい」ということを掲げています。2013年から行っている「働き方と組織の未来」ダイアローグセッションは、毎回100名ほど参加してくださり、2名ほどゲストを呼んで、お話をしていただいています。

このダイアローグセッションのゲストの特徴としては2つあり、1つ目は、面白い働き方をしている個人と、面白い組織作づくりをしている企業(=経営者)の各1名をゲストとして招待しているということ。「働き方」を個人のものだけでなく、「個人と組織の関係性」と捉え、個人側、組織側の双方から働き方の未来を考える場づくりを行っています。組織のミッションと個人のミッションが完全には一致しない中で、個人のミッションを発見し、それにチャレンジするということは、大切なことだと、私たちは捉えています。社会起業家の方やNPO法人を立ち上げる方は、まさにその個人のミッションを高く掲げて動いている方が多いです。

一方で、大きな企業に所属すると、組織の一員として企業の業績や目標を目指さなければならないですよね。私は、個人のミッションというのは、年齢や周囲との関係性によって変わっていくものだと考えているのですが、組織の中で揺らぎながら自分自身のミッションについてブラッシュアップしていくことは必要だと思います。

2つ目として、あえて「ルール違反」をしている人を招待しています。例えば、副業禁止の企業に所属しながら、個人で会社を経営している方に登壇してもらったことがあります。その方は、勤める企業の懲戒会議に何度もかけられているにもかかわらず、ダイバーシティ経営の象徴として、人事担当者から学生向けの会社説明会に登壇してほしい、とお願いされたりするそうです。
組織におけるルール違反者は、悪人のように見られがちですが、そのルールが変わった瞬間に「先駆者」になります。ルール違反といいつつも、その背景にある志こそが重要で、みなさんにもそういった観点で組織と個人を捉えてみてほしいという思いから、登壇をお願いしています。みなさんがはたらく上で一番楽しいと感じるところは、会社のやりたいこと(ミッション)と個人のやりたいこと(ミッション)が重なることだと思います。さらに言えば、その重なりの中で、世の中の「不」が解消できたとき、社会貢献という意味でも満たされるのではないでしょうか。その重なりを見つけるきっかけはたくさんあって、私の場合は、子どもが生まれたことで親としての世界が広がったことでした。

私は企業の新規事業担当として働いていますが、組織のミッションだけを掲げて社外の方と話をすると、なかなかお互いの共通項が見出せずに苦労することがあります。そこで、なぜ企業の新規事業を担当しているのかということの前に、個人のミッションを相手に伝えると、相手が共感してくれたり、思いが重なるところが見つけやすかったりして、話がどんどん進んでいくんです。みなさんも、個人と組織のやりたいことを軸にして、社会全体という視点で周りを見てみると、仲間が一気に増える、ということがあるかもしれません。

働き方の多様性に対応した場が必要

組織と個人の未来とは

庵原:ここまでのまとめとして、石川さんの考える「組織と個人の未来像」をお聞かせください。

石川:組織の変化という観点では、個人にとって利用価値の高い場づくりをしていかなければならないと感じています。ジェンダー、国籍、年齢など、今後も働く人の多様性が重要視されていくことは間違いありません。それに加えて、私が娘の誕生を機に働き方に対する意識が変わったように、一人ひとりの働き方の中にも、時期によって多様性があると思っています。個人の中にある働き方の多様性に対応できるような組織の場や、それを管理するマネージャーが必要になるのではないでしょうか。

組織においてそういった場が完成したとしても、利益を出し続けなければ、その場が存続していくことはできません。利益を出し続けながら、組織が変化と成長を続けていくためには、組織に所属する個人が場に貢献し、育てていくという当事者意識が必要です。その当事者意識とは、個人のミッションと組織のミッションが重なるような内発的なものでなければなりません。組織も、個人のミッションは時期によって変化していくものという前提にたち、常に働く個人とどのような関係性を作っていくのか?ということに向かいあうことが必要ではないでしょうか。そういった姿勢を示すことが、個人が貢献し育てたいと思う組織づくりに繋がっていくと感じています。

では、個人の変化という観点ではどのような変化が必要になるのか。これは前半に述べた、「大人」の働き方を選択していく、ということです。SNSなどの発達により、個人と個人の結びつきが簡単になった分、組織に対する個人のパワーシフトは大きくなっています。何のために働くのか、なぜ組織に所属するのかを考え、自分と社会の間を様々な関係でつなぐ人が増えてきています。

これは社会に出る前の学生についても同じ傾向が見られていて、そうした20代が会社に入ってくるとなると、それを受け入れる会社の人々も変わっていかなければなりません。そして、そういった個人を組織の中でうまく活かしていくことが重要です。

一度壊して、新しいものを生み出す

石川:「ばんそうこう」の「そう」は「創」と書きますが、なぜ「創」なのでしょうか。「創」には「きず」という読み方があり、その語源は、「自分自身がつくりあげてきたアーカイブ(倉)を一度刀で壊す」という意味だそうです。一回傷をつけて壊さないと、新しいものは生まれない。私は日々その思いを胸に、働き方と組織の未来を「創」り出すために、これからも活動していきたいと考えています。

組織と個人に求められる変化とは

庵原から鋭い質問が投げかけられる

庵原:ありがとうございました。ここからは、組織と個人について、石川さんとさらに議論を深めていきたいと思います。まずお聞きしたいのは、石川さんの複数の活動が、所属先の中でどこまで理解が得られているのかというところなのですが、いかがでしょうか。

石川:いきなり核心をつく質問ですね(笑)。私が個人の活動として最初に加わったのは、NPO法人SVP東京という、投資と協働を通じてNPOや社会起業家を応援する組織でした。私が所属した2012年当時、SVP東京は合同会社だったので、参加するには、その会社の社員にもならなくてはいけなかったんです。「社員はまずくないか?」と思い、まずは人事部に相談し、活動内容について理解していただきました。

当時の社長が、社会起業家支援などの社外の活動に理解のある方だったので、SVP東京についても詳しく知っていました。そこで、会社に迷惑がかからないか、組織の運営上の怪しさはないか、活動の意味などを確認し、社員として所属することを認めていただきました。SVP東京では、今まで知らなかった社会課題を知ることで、普段何気なく見ているものの見方が変わったり、様々なバックボーンをもつ多様なビジネスパーソンと一緒に協働することで、色んなことを学びました。

庵原:石川さんが活動をされる上では、上長の方の理解がとても大きいものだということですね。

石川:そうですね。もちろん理解していただいているんですけど、補足すると、「良いとも悪いとも言われない」という感じですかね(笑)。でも、社外での活動で得たつながりが、会社での事業のきっかけになることもあるので、組織とは切り離したカタチで、うまく自由に動かせてもらっているという感じでしょうか。

 

個人と組織のミッションの重なり

庵原:具体的に、石川さん個人の活動によって所属先へプラスの変化をもたらした、ということはありましたか?

石川:現時点では具体的な制度やルールの変化というものはありません。今は、私が組織における成果を出しながら活動しているため、続けられているだけで、もしかしたら「会社を辞めてください」といわれる可能性も否定できません。複数の組織に所属する以上、会社に迷惑をかけないということが一番だと思っているので、何か気になることがあったら上司やチームメンバーに相談をする、コミュニケーションをしっかりとっていく、ということが重要だと考えています。

私は社内でも複数のポジションを兼務していて、その中で感じるのは兼務の方の評価の難しさです。企業の文化や風土にもよりますが、ルールや制度という面で、社内や社外の兼務をきちんと評価できる方向に今後変わっていくのではないかと感じています。

庵原:兼務先での業務を、きちんと評価項目とすることができるか、見直しが図られるようになるのかもしれません。続いて、Work Design Labで開催されているダイアローグセッションについて伺いたいと思います。ダイアローグセッション開始当時と、現在で何か変化はありましたか?

石川:3年前と比べて、状況が随分変わってきているという感覚があります。1番感じるのは「2枚目の名刺」を持つような、個人で活動される方が増えたことです。さらに最近では、その活動している個人同士が繋がって、集まってチームを作るようになってきています。様々な立場の方法論を持った個人が集まり、情報が流通することによって、具体的に会社に利益をもたらす価値を生み出せたり、ベンチャーとしてのキャリアを得たり、働くことに対するモチベーションを感じる場ができたり、といったことが起きています。

庵原:個人としてのミッションが、組織のミッションや個人と組織共通のミッションにつながるようなイメージでしょうか。

石川:そうですね。ただ、組織のミッションや個人と組織共通のミッションにつなげるといっても、新規事業を立ち上げるという面では、企業でも個人でも難しさは変わりません。組織の枠を超えて活動する個人に注目するメディアは以前より増えた、という感じですかね。

Work Design Lab主催のダイアローグセッションの様子

組織と個人をつなぐ場

庵原:我々のSeaや、石川さんのダイアローグセッションのような、外部とつながる場というのは、企業の中でも価値が認められて、どんどん一般化してきていて、ある種の競争状態も生まれつつあるように感じます。石川さんの中で、価値があると感じる場や、逆に「イケてないな」と思うような場はありますか?

石川:私自身もまだ探求中なので、一概には言えませんが、あえて差があるとしたら、「編集長の面白さ」ですかね。場は雑誌のようなもので、編集長が面白ければ、コンテンツも面白い。みなさんが雑誌を読んだときに、「タメになった」「また読みたいな」と思うのと同じように、主催する側が、参加者にまた行きたいと思わせる場を作ろうとしているかどうかだと思います。そういった雰囲気が無く、「会社からテーマが降りてきたのかな…?」と感じてしまうような場もたまにあります。

庵原:そういう意味で言うと、場の空間そのものを作るのは管理側、場の「編集長」は運営側の事業部門といった切り分け方も見られる中で、それぞれの立場の人たちがきちんと結託して場を運営していくことがますます重要になってきますよね。

石川:その通りですね。企業として場を作っていこうとなると、外部からのお客様が来たときのセキュリティはどうするのか、といった話題にどうしてもなるんですよね。ある企業のオープンイノベーションスペースに訪れた際に、管理部門とは別に、ビジネスとして外部と内部をつなぐポジションの方がいらっしゃることに気づきました。外部の方とのパイプ役になりつつ社内の関係部署を納得させるような、場全体を丸く収めるような行動をしていましたね。「楽しさ」と「管理」のバランスの難しさは、私自身も感じています。

庵原:なるほど。では話題を変えて、これからの働き方、働く場に向けた組織の課題について考えていきたいと思います。石川さんの中で、組織はこうなっていくべきだ、というお考えはありますか?

石川:これから大きく変わっていく必要はあるのかなという思いはあります。私の現在の立ち位置である、「新規事業担当者」と「3児の父」という軸でみたときに、子どもの送り迎えや、家族と食事をとる為に早く帰宅するように心がける生活の中で必要だと感じるのは、「職住接近」ですね。

究極の「職住接近」は、「自宅マンションの中で働く」ということです。現在の居住用マンションというのは、住民が利用できる共有スペースや自習室などはあっても、働くことへのチューニングはされていないと思います。乗り越えなければならない壁はたくさんありますが、「職住接近」を今後の働き方の1つのキーワードとして捉えてみると、共働き家庭の子育て事情や、生産性の向上といった面での解決策が生み出せそうな雰囲気があります。事業として、ディベロッパーの方にそういったマンションは作れないのかというお話をすることもあります。あとは、面白い人と一緒に働けるような働き方ができるようになると良いかなと思います。新規事業担当者として、多様な人とのつながりから新しい課題の捉え方が出てくることを実感しているので、社内社外にとらわれず、色んな人と一緒に働けるような状況が作り出せると良いですね。

例えば、地方創生だったら、その地域に拠点を置いて、地方創生に取り組む個人や企業の担当者が、同じ場で働いていたりとか。今はインターネットがありますから、個々の組織の仕事をすることももちろん可能ですし、その場でコミュニケーションが行われることによって、地方創生の新しい課題の捉え方が見つかったり、面白い事業が生まれると思うんですよね。ここもセキュリティとか、管理の面での課題はもちろんありますが、パブリックとプライベートの間の「縁側」のような、そんな空間が働く場として出てくれば、もっと面白いことが起きると思います。

庵原:「縁側」という表現はとても面白いですね。働き方が徐々に多様化してきて、オフィスの形も変化して、フリーアドレスなどが増えてきている一方で、ラフにコミュニケーションが取れないといった声も聞きます。働く場として、色んな人とちょっと居合わせられるようなバランスが必要となりそうですね。これからの個人と組織の関係性として、制度の観点ではどうでしょうか。

石川:評価体系、評価基準がもっと明確になっていくべきです。例えば「副業禁止」の中でも可能な活動があったり、ひとことで「禁止」といっても企業によってグラデーションがあると思います。いまここで改めて、個人と組織の関係性を整理して、組織において個人をどのように評価していくのかを明確にしなければならないと思います。

庵原:人事面での評価といったところは社外に出すのは難しそうですが、組織の制度においても、オープンイノベーションを起こしていけるとおもしろそうですね。本日は貴重なお話をしていただき、ありがとうございました!

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