REPORT

2017.10.11

“SEA DAY 03” 開催レポート
[Day2-01] 「オフィス×キャンプ」? キャンピングオフィスで実現する、自然体の働き方改革とは

キャンプの要素をオフィスや働き方そのものに組み込むことで、クリエイティブな環境を生み出し、生産性を高められるのではないか。豊富な実例からは、オフィスや働き方にとどまらず、組織や生き方それ自体への影響も見えてきました。

■ゲスト

村瀬 亮(株式会社スノーピークビジネスソリューションズ 代表取締役)
藤本 洋介(株式会社スノーピークビジネスソリューションズ 取締役)

■モデレーター

庵原 悠(株式会社岡村製作所 WORK MILLプロジェクトメンバー デザインストラテジスト)
山本 大介(株式会社岡村製作所 WORK MILLプロジェクトメンバー)

SEA DAY 03の2日目のファーストセッションのテーマは「オフィス×キャンプ」。一見対立的に見える要素ですが、キャンプの要素をオフィスや働き方そのものに組み込むことで、クリエイティブな環境を生み出し、生産性を高められるのではないか。そんな先駆的な取り組みを実施し注目を集めているのがスノーピークビジネスソリューションズ社です。同社代表取締役の村瀬亮さん、取締役の藤本洋介さんのお二人から、キャンピングオフィスが「はたらく」に与える影響についてお話を伺い、その可能性を考えていきました。

豊富な実例からは、オフィスや働き方にとどまらず、組織や生き方それ自体への影響も見えてきます。テーマにふさわしく、ゲスト、モデレーターが座る椅子もスノーピーク製のローチェア。リラックスした雰囲気の中、トークが交わされました。

【村瀬さんTalk】アウトドア・キャンプが働き方へ与えるインパクト

株式会社スノーピークビジネスソリューションズ 代表取締役の村瀬 亮さん

働き方改革は「質」の時代へ

村瀬さんはまず、「弊社のミッションは、自然の壮大なエネルギーと、テクノロジーの無限の可能性を健全に融合して、人材問題をはじめとした企業の課題の根本的かつ本質的な解決を目指すことだ」と話し、キャンプのエッセンスが日本の働き方改革にとどまらず、会社組織を大きく変えていく可能性を示唆しました。また、制度や仕組みを整える外部からの改革や、量的な取り組みでは効果がなく、考え方や企業風土を変える内部からの変革をもたらす「質の施策」が必要ではないかと提起。その「質の施策」にキャンプが与える影響が大きいのではないかとしています。

そもそも村瀬さんはスノーピークビジネスソリューションズとは別に、ハーティスシステムアンドコンサルティングというITコンサルタント企業の代表もつとめています。スノーピークと合弁で会社をはじめる以前から、ハーティス社での経験にもとづいてオフィス×キャンプに導かれていったと村瀬さんは述べます。

質の施策としてのキャンプへとたどり着く最初のきっかけは「社員が能動的に動ける環境をつくることが必要ではないか」という気づき。村瀬さんは、携わった2000件以上のコンサルティング案件から、システム導入、組織改善には成功の鉄則があることに気づいたそうです。

「外から仕組みやシステムを導入してもうまくいかない。成功している事例では、必ず『Whyの合意形成』『プロセスの共有』『良好な人間関係』がある。そして、それを支えるのが社員一人ひとりが能動的に考えて動きだせる環境だと分かった」(村瀬さん)

そして、「どんなときに人は動くのか」を「楽しいと感じる時」「何かを生み出す時」「全員で協力する時」と分析し、その実現をまず自社でトライするところから始めます。

村瀬さんがリモートオフィスキャンプを初めて試したときの様子

人間関係、ES改善からアウトドアへ

この3つの実現のためには、高いES(Employee Satisfaction、従業員満足度)が必要であり、なおかつ、「ひとつだけ不可欠な条件を選べと言われたら、『良好な人間関係』。これがあれば何もかもうまくいく」と、その実現のために、さまざまなイベントの実施、制度・システムの導入を行いました。

例えば、「子育て支援在宅ワーク」「チャレンジウォーク」「神明宮お祭り参加」「出退勤システム」など、30件以上の施策を実施。これらの施策は、社内でのES調査結果改善はもとより、船井総合研究所による従業員満足度の最優秀賞の連続受賞、厚生労働省による「女性の活躍推進企業」認定、「あいち女性輝きカンパニー」認定など外部からの評価にもつながっています。

この取り組みを、さらに拡大しようとし、始めたのがキャンプへの取り組みでした。「ITだから社内に居続けなくてもできることがある。トリッキーなこともやってみたくなった」(村瀬さん)と、自ら一週間キャンプしながら仕事をする、入社式の訓示をキャンプ場から中継で送るなどといった働き方を実践。「これがやってみると、みんなが楽しくなって非常に良かった」ことから、社内全員での取り組みへと拡大、スノーピークのテントを大量に購入するなどのオフィス×キャンプの活動に続いていきました。

キャンプと働き方、7つのメリット

キャンプをしながらテントの中で打ち合わせをしたり、働くチームが屋外で夕飯の支度をしたりする。そんな環境が働き方の質を上げ、生産性も向上することができたと村瀬さんは言います。その経験から、働き方に対するキャンプの効能を7つの項目に整理しました。

(1)クリエイティブ
(2)チームビルディング
(3)ビジョンシェアリング
(4)クラウドリテラシー
(5)モラルエデュケーション
(6)ウェルフェアプログラム
(7)クライシスマネージメント

キャンプやアウトドアの現場では共同作業が必要であり、常に周囲への気遣いが必要になるという点では、チームビルディングやモラル養成に役立ちます。また、「オフィスの中では、100年先の未来のことを考えにくい」と村瀬さんが言うように、壮大な自然の中でこそ、大きな「人間の未来」に思いをいたすことができるなど、アウトドア環境だからできるクリエイティブもあるはずです。また、「火の前では人の本性がむき出しになる」ため、焚き火の前で語る社長の思いはビビッドに伝わるのだと村瀬さんは話します。

(7)のクライシスマネージメントは、主にBCP(Business Continuity Planning、事業継続計画)に関することですが、偶然にも今年の2月にその成果が試される出来事に遭遇したと村瀬さんは言います。

「会社の上のフロアが火事になって、オフィスが水浸しになってしまい、仕事がストップしてしまったことがありました。しかし、普段からアウトドアで臨機応変に対応したり、自然と役割分担する経験をしているので、1時間で別の場所に移って復旧することができた」(村瀬さん)

そして最後に「テクノロジーと自然を融合することでオフィスも大きく変わることができる。この1年、さまざまな実験をしてきたので、その成果をお伝えしたい」と話し、藤本さんのトークへ移ります。

【藤本さんTalk】新しい働き方、イノベーションのヒントは「キャンプ」にあり!

株式会社スノーピークビジネスソリューションズ 取締役の藤本 洋介さん

アウトドアオフィスの事例と効果

キャンプを導入した働き方改革を推進する中で、村瀬さん曰く「スノーピークの企業ユーザー第一号になった」縁から、「オフィス×キャンプ」の事業を促進するためにスノーピーク社と合同して立ち上げることとなったのがスノーピークビジネスソリューションズです。オフィスにキャンプのエッセンスをどう取り込むのか、そしてどんな効果があるのかを実証する事例を藤本さんに紹介していただきました。

まず最初に登場したのは、大手広告代理店で段階的にキャンプ用品を設置していった例。最初に「執務室の一部に芝を敷いて焚き火台を置いて、何が起こるか調べた」(藤本さん)ところ、「自然と人が集まって、ワークセッションやミーティングが自然発生的に起こるようになった」そうです。

これを受けて、次は「人のあまりいないスペース」への導入。あまり利用されていなかったロビーエリアに2時間ほどかけて人工芝を敷き、テント、デッキチェア、ローテーブルなどアウトドアグッズを設置。さらに空間演出のため植栽や自然音も入れたところ、藤本さんもびっくりするほど人が集まり、活発に利用されるようになりました。

利用者のアンケート調査を実施したところ、「リラックスできる」「打ち合わせがいつもより盛り上がる」「クリエイティブになる」というポジティブな回答が多く寄せられ、74.4%が「ぜひ常設で使えるようにしてほしい」と希望しているという結果が得られました。「否定的な意見はまったくなかった」と藤本さんは言います。

「脳波測定をすると、集中度が8%向上し、ストレス度が15%改善するなどの数値が得られた。こうしたデータが、なぜ受け入れられているかを裏付けていると思う」(藤本さん)

この会社では、その後執務室全体をキャンプ仕様にするなど、取り組みを拡大しているそうです。

広告代理店に最初に設置したオフィスキャンプの様子

オフィスから一歩外へ出よう

企業への導入例は徐々に広がっており、上記のような大掛かりな例だけではありません。

「オフィスギアのひとつとして導入するケースもあり、オフィスの一部だけで導入したり、ブースをひとつだけキャンプ仕様にしたり、小さな一歩からスタートすることも増えてきている」(藤本さん)

特にコミュニケーションの活性化に効果があり、「話しやすくなった、人の話を聞きやすくなったという声がよく聞かれる」とも話しています。

また、オフィスの外をワークプレイスとして利用する事例も増加しており、テラス空間をイベントに利用したり、研修で使うケースも見られます。オフサイトミーティングとして、新潟にあるスノーピークのキャンプフィールドで1泊2日の研修やチーム合宿を行うこともあると言います。

「1泊だけでも生活をともにするだけで、人間関係はがらっと変わる。オフィス空間だけでなく、さまざまな場所を活用してアウトドアワークスタイルを行うことも非常に有効だと思う」(藤本さん)

これを受けて村瀬さんも「ビジネスマンにこそ外に出てほしい」と言います。

「イノベーションを起こすきっかけは、オフィスの中にはないはずだ。もちろん現状の一般的な社内規則の中では、オフィスの外に行くことにハードルはあるが、研修で使うといったトライなどから、まず小さな一歩を踏み出してほしい」(村瀬さん)

そう呼びかけてトークを締めくくりました。

【Discussion】キャンプで「人間」を磨く

後半は、会場も交えてのクロストークセッションへ。庵原、山本ら岡村製作所チームも、新潟のキャンプフィールドでチーム合宿を経験しており、「オフィス×キャンプ」実践の効能は身をもって体感しています。まずはその「効能」について、「オフィス×キャンプは科学できるのか?」という疑念からスタートします。

庵原:オフィスにキャンプの要素を導入することは、非常に分かりやすく、共感も得やすいものだと思いますが、働き方改革へ適用していくには、やはり目に見える効果や数値が必要だと思います。その点について、どうお考えでしょうか。

村瀬:いろいろデータはあるんですが、実は一番言いたいのは「カラダはわかる」ということなんです。五感は常に作用しており、座る、立つという動作ひとつとっても、お尻で座面を感じる、足に重さを感じるなどさまざまな感覚が働いている。知的創造のためにはこうした感覚がとても重要で、キャンプはその感覚を強く刺激していると思うんです。

 山本:キャンプの際には「五感で語る」と仰っていましたが、本当にその通りで、自然の中でありのまま生きることがクリエイティブにはとても重要だと感じました。

 庵原:スノーピークさんと弊社のプロジェクトで、弊社のデザイナーが芝の毛足の長さにこだわったことを思い出します。裸足になったときに、芝の感触を強く感じる感覚が重要だと言うんですね。

藤本:ドーム型のテントで打ち合わせが活性化するのも、普段よりも密集して集まれる環境があるからかもしれません。

庵原:肌感覚で誰もがその効果は認めるところではありますが、やはり証拠やエビデンスを求められるのではありませんか。

村瀬:確かに、マジョリティに広めるためには数値が必要です。いま考えているのはコストメリットの算出、導入事例の増加、そして具体的なエビデンス。キャンプ用品としては価格は高いほうですが、オフィス家具としては安いものですから、そうしたアプローチの可能性をひとつ考えています。エビデンスについては、いま慶応義塾大学の先生と、会議中の笑顔の計測と会話の分析を始めようとしています。積極的な発言が行われているかを調べることができるようになれば、エビデンスとして使用できると思います。

快適性と良いストレス

庵原:はたらく視点でキャンプを体験してみると、オフィスの快適性について考えさせられることがありました。かつての就労環境では「不便だから、それを解消するために新しいものが生まれる」という側面もきっとあったはずで、現在のオフィスは恵まれすぎているのかもしれない、と。

村瀬:昔は良かった、いまの若いものは……ということは言うまいと思ってきましたが、確かにいまのオフィスは、昔よりも快適にはなりましたが、不足がない分、発想が貧困になっているとは思います。キャンプはそういった意味では原点回帰しているとも言えるかもしれません。

 藤本:不足があることがキャンプでは重要な要素で、研修キャンプのときは、何かイレギュラーが起きないかなと期待しています(笑)。夕立がきたとか、料理で失敗したとか。快適な体験は実は記憶には残りにくい。ストレスやイレギュラーがあったほうが後々までみなで共有できる記憶として残ります。

 村瀬:ストレスを受けることがなくなったために、最近はストレス耐性がひどく低下しているようにも思います。言葉じゃなく五感でストレスを感じることで、人間としての力が増すのではないでしょうか。

 庵原:プロジェクトを通して、キャンパーは企業が求めるリーダーとしての資質も備えていると思ったのですが、人材育成の観点からみていかがでしょうか。

 村瀬:ええ、リーダーとして生きる力を身に着けることができると思います。だからいま、企業のみなさんには「5%」とか「50万円」とか、ちょっとした枠をキャンプで使いませんか、という提案をしています。そういう提案すると、「効果があるか検証する」と50万円以上の費用をかけて調査する企業もいてナンセンスだなあと思います。そんなことよりも、ちょっと費用を使ってまず1回キャンプしてみる。そういう小さな一歩から始めてほしいと思います。

キャンプの経験者も多くいたようで、オフィス×キャンプの可能性を真剣に考える参加者が多かった今回、会場からの質問も熱心に寄せられ、活発な意見交換のうちに締めくくられました。

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