REPORT

2017.10.10

“SEA DAY 03” 開催レポート
[Day1-03] 次世代を担う若者たちの働き方~テクノロジー×教育がもたらす未来~

次世代を担う若者たちの働き方はどうなるのか。現在の働き方改革ですっぽりと抜け落ちてしまっているテーマに、教育とテクノロジーからアプローチするサードセッション。未来の「はたらく」を、プログラミング教育の現場を通して考えます。

■ゲスト

宮島 衣瑛(Innovation Power CEO / 一般社団法人 CoderDojo Japan 理事 / CoderDojo Kashiwa Champion)
古山 隆幸(一般社団法人イトナブ石巻 代表理事)

■モデレーター

遅野井 宏(株式会社岡村製作所 WORK MILL編集長 ワークスタイルエバンジェリスト)

次世代を担う若者たちの働き方はどうなるのか。現在の働き方改革ですっぽりと抜け落ちてしまっているテーマに、教育とテクノロジーからアプローチするのがこの日のサードセッション。

ゲストはいずれもプログラミング教育を実践するお二人。お一方は高校2年でTEDに登壇した経歴を持つ“元高校生起業家”、そして現在では会社を設立し、社団法人の理事として運営に関わり、学生として大学でも学ぶ“三足”のわらじで、教育問題に取り組んでいる宮島衣瑛氏。そして、もうお一方は「石巻から1000人のITエンジニアを」をコンセプトに掲げるイトナブ石巻の古山隆幸氏。未来の「はたらく」を、プログラミング教育の現場を通して考えます。

【宮島さんTalk】次世代の働き方に直面する、学生がすべき3つのこと

“三足”のわらじで活動を行っている宮島 衣瑛さん

3つのプロジェクトを走らせる

宮島さんは冒頭、「教育が問題視されるいま、IT業界から教育へ参入する人は多いが、逆に教育業界からITへアプローチするベクトルがまったく欠けている」と指摘しています。2020年までに「すべての小学校でプログラミング教育を」が政府の指針ですが、このままでは有名無実化する可能性があることも指摘。教育を理解する人間が、ITを使って教育現場を変えていくことの重要性を語ります。

まず宮島さんは、現在の“三足のわらじ”の状況を説明。それによると、一足目のわらじであるCoderDojo Kashiwaは、2013年5月、宮島さんが高校1年のときに発足。現在では柏市内に4拠点を持ち、毎回すぐに定員がいっぱいになってしまう人気を得るまでになっています。特徴は「大人だけでなく高校生、大学生が小学生に教えているということ」(宮島さん)で、プログラムを共通の目的に、大人から子どもまで集まる、非常にバラエティーに富んだコミュニティを形成しています。

2足目のわらじは、営利企業としての顔。Innovation Powerは、教育問題の調査研究を主業務とする企業で、学校現場でのプログラミング教育導入や、ESDに代表される次世代の教育を研究・実践しています。未来を生きる力をつけることを目標としている「PowerLab」も手がけています。そしてもうひとつが大学生。現在大学2年で、「学生と起業家、そしてボランティア、三足のわらじをなんとか回しているような格好」と宮島さん。

宮島さんのワーク・アズ・ライフなスケジュール

“Work as Life”な生き方

実際そんな三足のわらじが可能なのか。「できる」と宮島さんは力説します。「三足のわらじをうまく組み合わせて回していく。逆に仕事とプライベートと切り分けてしまうとダメになっちゃう」と、仕事とプライベートを分けない生き方を示唆。

「ワークライフバランスとは言うが、いろんな仕事を、プライベートも含めてミックスしてやっていけばなんとかなるもの。こういうのを、メディアアーティストの落合陽一さんの言葉を借りるなら、ワーク・アズ・ライフな働き方だと言えるのかもしれません」(宮島さん)

トークでは実際にこの数日をどう過ごしたのか、タイムマネジメントの一例を紹介。例えば10月6日は、早朝から論文を書き、その後午前中は大学で授業を受けて、午後のフライトで沖縄へ。深夜まで翌日のワークショップの準備をして就寝。7、8日はワークショップ本番で、朝から終日子どもたちとワークショップ。深更になってから大学の課題をこなします。そして9日の朝のフライトで羽田へ、そして大学へ直行し授業、夕方から仕事の打ち合わせ…。「大変といえば大変だけど、程よく時間調整をすればなんとかなる。変にプライベートの時間を作ろうとするほうが、ほころびが出てうまくいかなくなる」と、ワーク・アズ・ライフの妙味を語ります。

新しい働き方のために学生がすべき3つのこと

そして、社会に出る前、学生のうちに3つのことをやるべきであると指摘します。

1つめが「得意分野を見つけて研ぎ澄ませ」、これは学生のうちに自分自身のバリューを見つけるということ。それは往々にしてニッチな領域へ行くことにもなり、宮島さんの場合なら、アプリの中でもシステム系が得意で、しかも教育分野に強いということ。「得意分野があれば自信を身につけることができる」とも宮島さんは語ります。いまの学生は「悲しいくらいに自分に自信がない」のが現状で、時間のある大学のうちに身につけるべきだと話しています。

2つめが「インターンではなくコワーキングスペースへ飛び込め」。インターンは仕事のやり方を知り、慣れる意味はあるかもしれないが、自分で仕事を見つける能力を身につけることはできないと指摘。特に起業家を目指すなら絶対コワーキングスペースへ行くべきだと語ります。

そして3つめが「真のデジタル・ネイティブたれ」ということ。現在の若者は“使い方は知っている”だけで真のデジタル・ネイティブではないと宮島さんは述べています。「デジタル・ネイティブとは、2つ以上のデジタルツールを使って問題解決できること」と定義しており、「大学生がじっくりと習得できる最後のチャンス」だと力説しました。

【古山さんTalk】遊ぶ・学ぶ・営む・イノベーション×ITで石巻から1000人のエンジニアを

一般社団法人イトナブ石巻 代表理事の古山 隆幸さん

1000人のIT技術者を石巻から

古山さんは大学4年時にウェブ事業で起業しましたが、「3.11」を機に故郷の石巻に戻り、「遊ぶ」「学ぶ」「営む」「イノベーション」をITと掛け合せ、IT人材を育成する「イトナブ」を運営しています。それは、震災復興とはまた別の2つの文脈によるものです。

ひとつは「プログラミング教育必修化が、このままで大丈夫なのか」という疑問。小学校でダンス教育が始まったとき、もっといえば英語の授業のように、取ってつけたような教育となりはしないか。「英語教育で大事なのは、あの人と話したい、という気持ちだったはず」(古山さん)。それと同じように、根っこの気持ちに根ざしたプログラミング教育がなければ身につかないと指摘します。「それが遊びだっていいじゃないか。まず遊びたいゲームを創る。イノベーションを起こす力はその一歩の先にある」(古山さん)。

もうひとつが、地域活性化とも絡む動機です。古山さん自身が起業したのも、「チャレンジするカッコイイ大人の姿を見たから」で、石巻が魅力ある地域で有り続けるためには、その場で大人たちがチャレンジし続けなければならないし、チャレンジできる環境を整える必要もある。プログラムとはそのための「武器」だと古山さんは語ります。「大人がいまの自分たちのことだけやっていても本当の地方創生になんてならないんじゃないか。どんどん若い人が次の若い人たちを育てる、そういう循環を作らなければ魅力ある地方にならない」(古山さん)。

「石巻だから世界を狙う」ための教育プログラムを用意

イトナブのチャレンジ

そのために掲げた目標が1000人のエンジニア育成です。「どうせ石巻なんて」ではなく「石巻だから世界を狙う」と思ってもらえるように、プログラミング教育は「広く浅く」ではなく、あくまでも「てっぺんを取りに行くための最強のもの」(古山さん)を準備。機材やガジェットなども東京と同等かそれ以上のものを揃えています。

“武者修行”と称して、国内外各地のハッカソンへ若者を送り出すのも、世界標準を目指すため。2016年はフィンランドのハッカソンに学生を送り出しました。

「出会いはググっても見つからない。さまざまな世界の人たちと触れ合って刺激を受け、技術やアイデアを盗んでこいと送り出す」(古山さん)

また、「東北では最大、日本でも5本の指に入る」と述べる「石巻ハッカソン」を2012年から開催。これはビジネス観点でプログラムを実装させる訓練になるとも話しており、いわば「武器の使い方を教えるようなもの」と古山さんは説明しています。また、2016年からはロボット工学に強いミシガン大学との交流もスタートし、相互に持つプログラミング技術の交換なども行うようになりました。

こうしたチャレンジの積み重ねが、「石巻を変えていく力になるはず」と古山さんは語ります。

「攻めていく大人たちを見て、子どもたちも攻めるようになり、石巻は世界一だと信じられるようになり、地域に力が戻ってくるんじゃないでしょうか」(古山さん)

石巻の未来、子どもの未来

いま各地で取り組んでいる地方創生の多くが「移住促進」「定住者増」であることにも疑問を感じていると古山さんは話しています。

「人口全体が減っていく中で、地方がお互いに若者を奪い合っててどうするんだと。それよりも、それぞれの地域でしか学べないものを子どもたちに刺激的に与える。これをそれぞれのフィールドでやれば日本が変わるんじゃないか」(古山さん)

石巻の場合、それがプログラミングであり、それがあれば「地元を離れるときの気持ちが変わるはずだ」と古山さんは考えます。

「ここじゃダメだと離れるんじゃなく、ここで学んだことが世界で通用するのか、次のステージを求めて外へ出るようになる。そうすれば、5年後、10年後に戻ってきて地元をもっと面白くしてやろうと考える人も増えるはずだ」(古山さん)

そうやって人の行き来が生まれることで、世界と石巻の間に橋がたくさん架けられる。「働き方とは違うが、こういう橋を架けることが、未来を創る人材を育てることになると思う」と古山さんは話し、そのためにいまは「まず遊びから。子どもたちとプログラミングで遊び倒すことから始めている」と締めくくりました。

【Discussion】プログラミングを武器に働き方を変えていく

プログラミング教育の現在地点から未来を考える三者

プログラミング教育とエンジニア

遅野井:非常に刺激的なお話だったかと思いますが、改めてお二人にお聞きしたいのが、プログラミング教育の現在地です。どんな状況なんでしょう?

宮島:2つの流れがあると思っていて、1つは小中学校で行う“プログラム的思考”を学ぶ教育。プログラミング的論理構造を学ぶというもので、もうひとつのエンジニアを育てるプログラミング教育とは中身がまったく違う。プログラミング教育に批判的な人は後者ばかり取り上げているけど、両者をミックスして議論しているからおかしいことになっている。その意味でも日本のプログラミング教育はこれからだなと思います。

古山:他の教育でも、論理的思考を学んで実践するというやり方は同じはずなのに、なぜかプログラミングだとそこがごっちゃになっている。スタートとゴールをしっかりと分けて考えないと。第四次産業革命が起きると言われる中、IT人材不足という状況で、そういう教育がますます必要になると思うんですけど。首都圏にはたくさんありますが、地方はまだまだ足りないですよね。

宮島:プログラミング教育への意識は環境依存度が高いと思います。周りにPCがない環境もまだまだあります。だからこそ学校が果たすべき役割が大きいと思います。

未来の作り方

遅野井:論理的なプログラミング教育とエンジニア養成の教育、その間のアビリティというのか、つなぐような役割も必要な世の中になっていると思うんですが、どうですか?

宮島:それはその通りで、ある意味で僕がそう。今後は、他の仕事、例えば農業とか、スポーツとかをやりながらプログラムが分かるといった人材が求められるでしょうね。

古山:大学でプログラミングの授業を受け持っていますが、求められるのはそれですね。コミュニティデザインの学生にプログラムを教えて、その知識をもとに、いかにコミュニティにプログラムを使うかを考えてもらっています。

遅野井:もうひとつ伺いたいのがプログラムの可能性です。プログラムを身につけることで、どんな夢が広がるんでしょうか。

宮島:僕が思うのは、絵を描ける、粘土で形を作れる、というのと同じだなということ。表現の幅が広がるってことなんです。

古山:実はイトナブに来る若者の中には、ここで夢を探したいという人が結構多いんです。プログラミングは夢の見つけ方を教えるようなものだし、もっと言えばチャレンジの練習みたいなものかな。本当に何かに挑戦したいと思ったときに、チャレンジの練習してるのとしてないのとでは結構違いが出ると思います。

戦って叩き潰されて、それで若者は磨かれると説く古山さん

「若さ」に甘えない働き方、生き方を

遅野井:では、まとめとして、そういう教育を学んで世に出てくる子どもたち、若者を、大人世代はどう受け入れたらいいのか、おふたりの考えを教えてください。

宮島:そのまま一人の人間として受け入れてほしいということかな。僕は、コワーキングスペースで「高校生ですごいね」みたいな扱われ方しなかった。いつも一人の人間として対してくれたことが、後の起業にも影響しています。確かに社会のことは分かってないですが、変なレッテルや肩書を外して交流することがお互いのためになったと思っています。

古山:まったく同意で、もっと言えば、そういう若者をですね、一回叩き潰してもらったほうがいいかな(笑)。現実は厳しい。それを教えなければ若者は育たないと思うんです。戦って叩き潰されて、それで若者は磨かれる。僕もイトナブ始めたときは、石巻の市役所、学校、警察に怪文書を撒かれましたもん(笑)。そういうことに負けずに向かっていくことが後々の力になる。

宮島:すごくよく分かります。“高校生”ということに甘えていては先に続かない。叩き潰すというのはいいですね!変に守るのは、逆に良くないですよ。

遅野井:もっとお話を伺っていたいところですが、残念ながら時間です。今日は教育を中心に、将来の日本の担い手である若者の働き方について、すごく多くのヒントが得られたと思います。本当にありがとうございました。

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