REPORT

2017.10.10

“SEA DAY 03” 開催レポート
[Day1-02] コワーキングと働き方の未来 from「WORK MILL with Forbes JAPAN ISSUE 01」

岡村製作所・WORK MILLプロジェクトでは9月にグローバルなビジネスマガジン『Forbes JAPAN』の別冊として「働き方」を考えるビジネス誌を発行。創刊号の特集テーマ「コワーキングと働き方の未来」から、世界の潮流を浮き彫りにするとともに、日本のコワーキングスペースの現在をあぶり出し、コワーキングという働き方の可能性を議論しました。

■ゲスト

水口 万里(Forbes JAPAN編集部・エディター)
石原 龍太郎(Forbes JAPAN編集部・エディター)

■モデレーター

遅野井 宏(株式会社岡村製作所 WORK MILL編集長 ワークスタイルエバンジェリスト)
山田 雄介(株式会社岡村製作所 WORK MILLプロジェクトメンバー ワークプレイスストラテジスト)

セカンドセッションは、『WORK MILL with Forbes JAPAN』創刊号を題材にしたクロストーク。WORK MILLプロジェクトではグローバルなビジネスマガジン『Forbes JAPAN』の別冊として「働き方」を考えるビジネス誌を発行、編集長・遅野井のもと、フォーブスジャパン編集部とタッグを組み制作しました。創刊号の特集テーマは「コワーキングと働き方の未来」。日本はもちろん、世界中のコワーキングスペースを取材し、それらを活用する新たな働き方を切り取っています。

ゲストはフォーブスジャパン編集部の水口万里さんと石原龍太郎さん。司会は、WORK MILLプロジェクトメンバーであり編集も担当した山田雄介が務め、遅野井を交えたトークで、世界の潮流を浮き彫りにするとともに、日本のコワーキングスペースの現在をあぶり出し、コワーキングという働き方の可能性を議論します。

働き改革はイノベーションの起爆剤

コワーキングの実態調査の日々を振り返る4名

山田:フォーブスジャパン(以下、フォーブス)では、私たちとのタッグを組む以前から何度か本誌で世界の働き方やオフィスを特集していますが、いま働き方について社会はどのような方向で動いているのでしょうか。まずそこからお話を伺えますか。

水口:働き方は、読者から注目度の高いホットなトピックスです。一般的には働き方=働き方改革、という捉え方が強いですが、フォーブスでは「日本にイノベーションをどうやって増やすか」が働き方改革のテーマだと考えています。つまり働き方改革は、イノベーションを加速するツール。そう考える読者も増えていると思います。

山田:働き方とオフィスの変化を振り返ると、1980年代までは管理型のオフィスが主流。1995年頃から効率型が求められるようになり、2005年頃から「知的創造」という概念が出てきて議論が盛り上がりました。その延長線上で、いまは「多様性」がキーワードになっている。我々がコワーキングスペースをクローズアップしたのもそのためです。多様な出会いと刺激がイノベーションを誘発する。コワーキングスペースにはそんな力があると思います。

Forbes JAPAN編集部の水口さん(左)と石原さん(右)

遅野井:いま、日本のビジネス界は閉塞感が強い。新しい刺激を与え合うコワーキングの場を日本にインストールできるかがイノベーション創発の鍵になる。そうフォーブスと議論して今回の特集になったという経緯がありました。企業の人たちがコワーキングスペースをどう使っているのか。世界の動きはどうなのか。そのダイナミズムを伝えたいというのが創刊号の狙いです。

山田:まず、日本の現状を概観したいと思います。現在、日本で一番有名なコワーキングスペースはヤフーが自分たちのオフィスにつくったオープンコラボレーションスペース「LODGE」ではないでしょうか。これは企業が目的を持って、本業に対する付加価値として展開した新しい例でもあります。約2500㎡の広いスペースに、自社だけでなく外部の人も招き入れて、「!なサービス」、つまりイノベーションの創発を目指しています。

目的は異なりますが、こうした企業の動きは、三井不動産や東急電鉄などのディベロッパーも取り組んでいる事例でも見られるほか、自治体や大学でも見られるようになりました。とにかくさまざまな組織体が独自に展開しており、その数は右肩上がりで、かつ多角化しているのが日本の現在地ではないでしょうか。

遅野井:いまの日本には600以上のコワーキングスペースがあると言われています。単なるスペース貸しではなく、どのようにコワーキングの関係性を構築するかが鍵ですが、その方法を模索しているのが日本の現状という印象ですね。各国とも、それぞれ独自の特徴があります。フランスはアーティストの活動をベースにした友愛の精神があるなど、オランダは直情的な、感覚に訴えかけるコワーキングスペースが主流。ロンドンはやはりフィンテックの中心地らしく、金融が強く、まじめな印象です。日本にはそうした独自の特徴がまだ醸成されていない。その意味でもこれからだと思っています。

コワーキングスペースの世界地図

フランス・パリの旧駅舎をリノベーションしたコワーキングスペース「Station F」

山田:ここで世界のコワーキングスペースを見てみます。いま、世界のトレンドは大企業とスタートアップが共存していること、コミュニティを作っているということだと思いますがいかがでしょうか。

遅野井:フランスで一番注目を集めているのが「Station F」。パリの旧駅舎を利用しており、26の領域で大企業がスポンサーとなって入居し、スタートアップを牽引しています。オープニングイベントには大統領も出席するなど、政府の期待も非常に高いことが伺えます。3階が大企業、2階がベンチャー、スタートアップ、1階が個人用になっていますが、企業の枠を越えて入り交じるように交流できるようになっているのが特徴ですね。開放的な雰囲気でとても明るいのもいい。いまITでは“フレンチテック”に投資も集中しており、ベンチャー周辺がとても賑やか。これだけ大きいインキュベーション施設には注目だけでなく投資も集まるようです。

石原:Station Fの共同創業者のバルザさんは、「施設を作りたいんじゃない、まちづくりをしたいんだ」と仰っていましたね。周辺に宿泊施設を作って、このあたり一帯を「インキュベーション・ビレッヂ」にする計画なんだそうです。

遅野井:画家の共同アトリエがコワーキングスペースの源流のひとつだという説がありますが、フランスは間違いなくコワーキングのルーツのひとつだと感じました。

山田:フリースペースの活用法が特徴的ですね。大企業とスタートアップ、ベンチャーが自由に交流できるようになっている。ベンチャーというとシリコンバレーばかり取り沙汰されますが、日本人はもう少しフランスの同行にも注目したほうが良いですね。

さて、もうひとつ世界のトレンドを表しているのがアメリカ発コワーキングの雄「WeWork」です。創業からわずか7年で5大陸18カ国、52都市で211施設を作り、2万社と14万5000人(2017年10月現在)の利用者がいるという実績があります。ニューヨークだけでも40拠点あり、日本では六本木、銀座、新橋に開設予定です。特徴はいろいろありますが、まずひとつ、内部で空間設計やBIM(Building Information Modeling)のスタッフを抱えていたり、ラジオ局まで持っていたり、つまり自前でなんでもできる体制になっていること。もうひとつは、“テクノロジーラボ”を称して、自分たちのビジネスを支援・加速する新たな技術開発に力を入れていること。これはとても興味深いですね。日本ではソフトバンクが出資しているのも象徴的です。

水口:共同創業者のミゲルさんは、テックで具体的に何をどうビジネス化していくのか明言するのは避けていましたが、どうやらデータサイエンスで何かやりたいと考えているようでした。なるほどと思いました。

山田:これに付随して、もうひとつの特徴が世界で14万人以上いるユーザーは、「WeWorkコモンズ」というアプリを通して世界中の施設を利用したり、コミュニティを形成していることですね。このアプリから世界中のユーザー同士がすぐ連絡を取り合えるのがWeWorkの強みになっており、何か困ったことがあったらアプリを通じて呼びかける。すると世界中からレスポンスがある。瞬時に世界にリンクできるのがWeWorkの醍醐味です。

水口:アプリはイントラとSNSの中間みたいな感じで使いやすいものです。ミゲルさんが強い口調で繰り返し仰っていたことが「私たちは施設運営のビジネスをやっているのではない、コミュニティのプラットフォーマーを目指している」ということでした。世界に直結したコミュニティを作っており、その肝がアプリというテクノロジーの活用だということ。意識が常に世界を向いている点がすごいと思います。

コワーキングスペースの未来

― この後、海外の事例で「Level39」(ロンドン)、「Meet Berlage」(アムステルダム)、「Industry City」(ニューヨーク)など9施設を紹介。ヨーロッパは石原と遅野井、アメリカの事例は水口、山田がそれぞれ特徴などを解説。そして最後にまとめへと移ります。

山田:いろいろなコワーキングスペースを見てきて、いままでの境界を越えた新しいコワーキングという働き方は、日本において「イノベーションを生み出す働き方」、「サステナビリティの高い働き方」という2つの働き方へのヒントを示唆してくれているように思います。その点も踏まえまして、これからのコワーキングスペースのあり方について、一言ずついただきたいと思います。

コワーキングへの大企業の参入を興味深く分析する水口さん

水口:イノベーション観点で言うと、もともとフリーランサー向けと思われていたコワーキングスペースでしたが、大企業の参入が進み、グローバルで賃料の30%が大企業からなっていることは興味深いことだと思います。しかもGEやBank of America、マイクロソフトといった非常に強いグローバル企業が、コワーキングスペースで外部のイノベーションシーズを求めて、自分たちのリソースを提供しようとしている。それだけイノベーションが求められているということですし、コワーキングにその可能性があると考えるようになっていると思います。

山田:まずやってみることが大切とは言いますが、本当にグローバル企業が投資をして、入居し、イノベーション創出への取り組みを始めているのが驚きですよね。その点日本ではこれからの動きになるのではないでしょうか。

石原:僕はサステナブルな働き方に可能性を感じています。特にアムステルダムの「Kantoor Karavaan」を視察したときはこれだと感じました。移動式のオフィスが見渡すかぎりの草原と羊や牛の中に鎮座している。メンタルに不調を感じている人が、1カ月に1回だけでもあそこで働ければ、改善が期待できるのではないでしょうか。イノベーションなどいわゆる「意識高い系」と言われがちな人たちばかりじゃなく、素直に良い環境で仕事をしたい、そういう人たちにとってもコワーキングスペースは良いものだと思います。

オランダ・アムステルダムの移動式オフィス「Kantoor Karavaan」

水口:「ワークライフバランス」という言葉がありますが、いま「ワーク」と「ライフ」を分けようとする傾向がありますよね。でもコワーキングスペースで起きているのは、逆にワークとライフの垣根を取り除き、両者を近づけようとする動きだと感じています。

遅野井:いろいろな観点がありますが、ひとつ感じているのは大企業も行政もコワーキングスペースから起きるイノベーションにすごく期待しているということ。ロンドンのLevel39は、日本の特区のように実証実験が自由にやれる許可が行政から与えられているように、規制緩和を含め柔軟に対応してイノベーションを育成したいというのが行政の本音でしょう。ロンドンの動きは日本の行政にも影響を与えているので、Level39で起きることは、日本の規制緩和にもダイレクトに影響してくる可能性があります。

また、私たち個々人にとって、コワーキングスペースはよりよい人生を送るためにますます必要になると思います。人生100年時代を迎えたいま、仕事の中だけに閉じこもっていては人生が辛くなる。また、会社だっていつ淘汰されるかも分からない。外にネットワークを作っておくことが、選択肢を広げ、豊かな人生を送るためのセーフティネットになると思います。日本ではまだまだスタートアップのためのものという印象がありますが、大企業の人たちこそ使ってほしいですね。

 

― 会場からの質問は残念ながらタイムアップのため受けることができませんでした。しかし、参加者の多くがコワーキングスペースの利用者で、うち2、3割が所属企業からの許可のもと利用している方々でした。日本のコワーキングスペースも、大企業が参画し、ベンチャー、スタートアップとのコワーキングを強力に推し進めることになる予感を感じさせて幕となりました。

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