REPORT
2017.10.10
“SEA DAY 03” 開催レポート
[Day1-01] 仮想現実と人工知能と働き方の未来
急激なAIやIoTの進展によって、私たちの生活そのものが一変すると言われている現代、働き方はどのように変わるのでしょうか。さまざまな可能性や憶測混じりの噂が聞かれる中で、業界のトップランナーたちが考える未来をお聞きします。
2017.10.10
急激なAIやIoTの進展によって、私たちの生活そのものが一変すると言われている現代、働き方はどのように変わるのでしょうか。さまざまな可能性や憶測混じりの噂が聞かれる中で、業界のトップランナーたちが考える未来をお聞きします。
■ゲスト
西脇 資哲(日本マイクロソフト エバンジェリスト(業務執行役員))
諏訪 光洋(株式会社ロフトワーク 代表取締役社長)
■モデレーター
遅野井 宏(株式会社岡村製作所 WORK MILL編集長 ワークスタイルエバンジェリスト)
急激なAIやIoTの進展によって、私たちの生活そのものが一変すると言われている現代、働き方はどのように変わるのでしょうか。「仕事がなくなる」「会社に行かなくてもよくなる」など、さまざまな可能性や憶測混じりの噂が聞かれますが、業界のトップランナーたちはどのように現代を捉え、どの方向へと舵を切ろうとしているのでしょうか。日本マイクロソフトでエバンジェリストとして未来の姿を提示する西脇資哲さん、そして、デザインとテクノロジーの交差点から未来を創造するロフトワークの諏訪光洋さん。それぞれが考える未来をお聞きします。
先に登壇したのは西脇さん。まず、日本マイクロソフト社(MS)に籍を置きつつも、「仕事のポートフォリオとしてはMSの仕事は少なくなっている」と自身の仕事の有り様の変化を話し、働き方と生き方についての変化を考えます。
それによると、いまはMSとは直接関係のないドローン関連の仕事や、ラジオのDJ、テレビのMCなどが増えているそうです。「昔はジョブホッピングで『生き方を変える』と言ったが、いまはそうじゃないんじゃないか」と西脇さん。西脇さんも外資系IT企業からMSへ転職した経歴の持ち主ですが、生き方を変えるのに必ずしも転職する必要はないと述べます。
「ジョブホッピングもいいけど、失うものもないわけじゃない。でも、いまは転職せずいまの仕事のままでも、簡単に面白いことができる時代になってきたんじゃないか」(西脇さん)
それは企業の制度的な面もあります。「昔は企業に籍を置きながらラジオのDJなんて絶対できなかった」。そして、それと共に、テクノロジーの進展が働き方に影響を与えているとも指摘。中でも西脇さんが注目しているのが、仮想現実(VR)とAI(人工知能)です。
VRの中でも、実際に働き方にもっとも影響を与えるのは、VRを現実世界につなぐMixed Reality(MR)であると西脇さんは見ています。
「VRはいわば没入世界。現実的に影響を与えるためには、仮想現実が物理世界に干渉できるようにならなければならない。その重なり合うところにあるのがMRだ」(西脇さん)
その例として挙げたのが、Microsoft HoloLens(マイクロソフト ホロレンズ)。外向きのカメラで物理世界を認識し、ディスプレイには物理世界と連動したヴァーチャネルな映像、世界を映し出すというもの。例えば配線工事の現場でワーカーが装着し、マニュアルを見ずとも作業できるなどの実用化例があります。また、オフィス同士をつなぎ、お互いがそこに存在しているかのように映像を映し出す「ホロポーテーション」と呼ばれる使用法も現実味を帯びてきました。会場では、遅野井が実際にHoloLensを装着して体験もしています。
「これはつまり、時間と距離をすごく縮めることだ」と西脇さん。そこにいなくてもそこにいるかのように振る舞える。仕事ができる。それこそが、未来の働き方の一端です。「時間や距離を節約できる分、働き方にさまざまな改革がもたらされる可能性が出て来るのでは」と西脇さんは指摘します。
そしてもうひとつ、働き方を強力に変えるものとしてAIを解説。「ディープラーニング」という言葉とともにAIの価値が広く知られるようになり、「ビジョン」「スピーチ」「ランゲージ」「ナレッジ」「サーチ」の分野で活用が進んでおり、特に「目と耳に相当する部分では既に人間を凌駕している」と西脇さん。例えば、会場をカメラで写せば、一瞬でそこに何人いるか識別できる。喋った言葉を文意に沿って正しく文字化し、さらには翻訳もできる。「国際会議での活用のほか、ハンディキャップを持った人たちにも使える技術になっている」と語ります。
このようにAIがバックグラウンドで動き、働き方に影響を与えているのが、「RPA(Robotic Process Automation)」やチャットボットなどの技術です。MSでは、RPAをイントラネットで実装しており、会議室の予約や出張のチケットの手配、名刺の発注などを行えるようにしており、「総務の仕事の多くをやってくれている」という状況だという。これまではITの進展で、付帯業務の多くが個々人に帰せられ、逆に仕事が増えるという状況が生まれていましたが、AIの進展で、それが自動化・効率化されているのが現状。
「システムに人間が合わせるのはおかしいだろう。人間に合わせてシステムを動かせるようになる、それがAIでは」(西脇さん)
こう締めくくり、トークのバトンを諏訪さんに渡しました。
ロフトワークはクリエイティブエージェンシーとして、デザインをてこに、さまざまな活動を展開しています。単なる受注仕事ではなく、クライアントとともに考え、より良いものを提案し作り上げていく、そんな仕事。Seaもまた、ロフトワークとの協業で生まれたスペースです。
ロフトワークらしい仕事としては、渋谷のほか全世界10カ所で展開しているデジタルものづくりを軸にしたFabCafe(ファブカフェ)がよく知られています。他にも、森林再生とものづくりを通じて地域産業創出を目指す官民共同事業体「飛騨の森でクマは踊る」(通称ヒダクマ)を飛騨市とトビムシとともに設立。また今夏には、パナソニック、カフェカンパニーととともに作ったイノベーション創発拠点「100 BANCH」があります。単にハードとしての場所を作るだけではなく、ソフト面もともに考えて運営の仕組みもデザインします。さらに、クリエイティブを通して、社会課題にも深く関わっていくのも特徴です。
「ロフトワーク自体はクリエイティブを担当したり、コミュニティづくりをしたりしているということになるが、それがひいては、クライアントの企業や団体のイノベーションをどうサポートするかということにつながる」(諏訪さん)
さまざまな技術とデザインで社会課題解決に取り組んでいる諏訪さんですが、まずグローバルのVR状況を概観します。それによると、「世界的な投資のピークは2015年」「ゲームに集中」という現状が見えてきます。資金調達のランキングを見ると、アメリカが多くランクインしている中、中国企業がトップ。日本、欧州勢も頑張っており、「西海岸だけではない」のがVRを取り巻く環境です。
「ネットの評判を見ると、VRはもう終わりだという声もあれば、まだまだこれからが本番だという声もあってちょうど拮抗しているくらい」(諏訪さん)
現状の活用例として、FabCafeではFacebookのソーシャルVRアプリ「Facebook Spaces」を導入しており、「これからの時代は、人の感情が触れ合うことが重要」という早稲田大学の入山章栄さんのコメントを引いて、ヴァーチャルで人が触れ合うことのメリットを認めてはいます。乳牛に仔牛の映像をVRで見せることで生産性がアップするということがありうるのか、リアルCG女子高生「Saya」(制作:TELYUKA)の活用の可能性など、現在進行形で進んでいるさまざまなプロジェクトを紹介していきます。
しかし諏訪さんは、VRは「おもしろい技術だが、いまだ不完全で、その活用にはデザインの力が必要だ」と話しています。それはAIも同じことで、先端的な技術は万能ではなく、常にクライアントのニーズにアジャストしていく必要があるということ。
例えば、Facebook Spacesは「キーボードが持ち込めないなど、ちょっとしたことでまだまだ使えない」(諏訪さん)。VR技術が活用されているのはフライトシュミレーターなどのごく限られた領域で、技術単体としては「すごい!でもそれだけ?ということに留まってしまう」と諏訪さん。
「つまり、クライアントの多様なニーズに応えるように利用法を考えなければならないし、技術をビジネスに落とし込めるニッチな領域を見つけなければならない」(諏訪さん)
諏訪さんはそれを見つけ、クライアントのニーズと繋ぐのがデザインの力だと指摘します。例えば画像から文章を生成するシステムは、それだけでは「単なるちょっと変わったメディア(媒体)でしかない」のが、「例えば飲食店で、お客さんからのフィードバックを受け取る仕組みとして使えないか?ということを考えるのがデザイン」だと語ります。
これは技術起点でサービスやプロダクトを考えてもうまくいかないということ。
「その技術を一番よく使えるところはどこなのかを考え、どう一歩をスタートさせるか。そのためには、どうデザインするかが重要。それはVRもAIも同じことではないか」(諏訪さん)
諏訪さんは、つまりUX(ユーザーエクスペリエンス)デザインこそが、VR、AI活用の鍵ではないかと視点を提起し、締めくくりました。
両者からのインスピレーショントークの後は、遅野井のモデレーションによる三者でのセッションへ。まずはAIを巡る議論で話題になる「仕事がなくなる!」というテーマ。
遅野井:AIは可能性を感じるわけですが、一方で人間の仕事を奪うとも言われます。
西脇:仕事がなくなるということはないと思いますね。変わるだけ。1905年のニューヨークは馬車だらけでしたが、1925年には車だらけになっています。その時、馬車の仕事がなくなる!と言われましたが、みんなタクシーやトラックの運転手になったりした。つまり労働の中身が変わるだけだと思います。
諏訪:僕も仕事が奪われるということはないと思う。むしろ人間の仕事の価値が上がるんじゃないかな。例えば、飲食店で無人化できるところが増えて、シェフが自分のバリューを示せる役割をどんどん果たせるようになる。AIは脅威でもなんでもない。
西脇:AIを巡る議論って、人間がAIに使われる!みたいになるからおかしくなる。主語をはっきりさせる必要ありますよね。人間の仕事の価値を高めるためにAIを使うんだ、といえば誰も反対しないじゃないですか。
遅野井:AIで仕事が効率化するという観点はありえます。
西脇:MSのタスク管理はすごく良く出来ていて、誰とチャットでどれくらい話したか、誰に出したメールが多いのか、相手はいつどう読んでいるかということが全部分かるようになっています。すると、AIがいろいろ教えてくれたり怒ったりするわけです。「夜に出したメールで相手が残業しているから緊急性がなければ翌朝にしろ」とかね。
諏訪:会議中にほかのことしていることも分かるんじゃないですか。
西脇:分かりますね。これが給料と連動したら怖い(笑)。
遅野井:でも、「監視」「管理」っていうと印象悪いですけど、セルフマネジメントとか秘書がついたとか思えば、悪くないですよね。
諏訪:いいですね。兄(アニ)キャラが教えてくれるとか、怒る時はガチムチのキャラとか。生産性が上がるかもしれない(笑)。
この後、会場からの質問も受け付けてのトーク。
質問者:経営層がAI化するという説を聞いたことがあるが、どう思いますか。
西脇:僕は役員は全部AIでもいいんじゃないかと思うな。
諏訪:経営者の立場としては、すごく便利でいいなと思う一方で、コモディティ化しちゃうので、みんな結局同じAI役員になって差がなくなるということも心配。経営ではどうしても勘みたいなものに頼るときもあるし。シェフみたいに人間しかできない経営判断にバリューが出る時代が来るかもしれないですね。でも、やっぱりAIが経営する会社があるのも面白い。25歳くらいの若者が「経営者がAIの会社がいい」「いややっぱり人間がいい」とか話している世界は面白いです。
質問者:逆に単一タスクを担う従業員がAI化して人間の仕事が置き換わるという点は?
諏訪:例えば、「テレアポ」のような仕事は完全に置き換わりましたよね。ネット広告とかスパムメールのほうが効率がいいってことで。だから結局、イヤイヤやる仕事がAIに置き換わるってことじゃないですか。誰も「よーし、スパムメール書きまくるぞ!」なんて仕事したくないじゃないですか(笑)。
西脇:結局、「作業」と「仕事」の違いだと思います。やっぱりやりがいとか自尊心が必要なので、「今日も俺いっぱい会議室予約したぜ!」って仕事を喜ぶ人はいないわけです。そこですよね、AIが活躍するのは。
遅野井:やはり人間の仕事には達成感が必要ということですね。面白いお話でいつまでも続けたいところですが、お時間ですので、この辺でファーストセッションは締めくくりたいと思います。お二人ともありがとうございました。
西脇 資哲
日本マイクロソフト エバンジェリスト(業務執行役員)
1969年岐阜県出身。1996年日本オラクルに入社。マーケティング、エバンジェリストなどで活躍。2009年マイクロソフト(現・日本マイクロソフト)に入社。Microsoftの製品・サービスのみならず、「ドローン×IoT」や『エバンジェリストスクール!』(TOKYO FM)で乃木坂46の若月佑美とパーソナリティを務めるなど、広い範囲にまたがるエバンジェリストとして活動中。
諏訪 光洋
株式会社ロフトワーク 代表取締役社長
1971年米国サンディエゴ生まれ。慶應大学総合政策学部(SFC)卒業後、InterFM立ち上げに参画。クリエイティブ業務を経た後、同局初のクリエイティブディレクターに就任。1997年渡米。School of Visual Arts Digital Arts専攻を経て、ニューヨークでデザイナーとして活動。2000年に共同創業者の林千晶代表取締役とともにロフトワークを起業。
遅野井 宏
株式会社オカムラ ワークスタイルエバンジェリスト
ペルー共和国育ち、学習院大学法学部卒業。キヤノンに入社し、レーザープリンターの事業企画を経て事業部IT部門で社内変革を担当。日本マイクロソフトにてワークスタイル変革専任のコンサルタントとして活動後、岡村製作所(現オカムラ)へ。これからのワークプレイス・ワークスタイルのありかたについてリサーチしながら、様々な情報発信を行う。WORK MILLプロジェクトリーダー。
ワークプレイス
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