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REPORT

2016.12.05

“SEA DAY 02” 開催レポート
[Day1-02] 人が集う場のデザイン ~"偶然の出会い"から得る気づき~

さまざまな現場で人の集まる場づくりが重要視されるようになる中で、"偶然の出会い"に着目する場づくりの実践者たちをお招きした本セッションは、都市・建築・人・想いなどさまざまな視点から意見が交錯するディスカッションとなりました。

インスピレーションスピーチ

■ゲスト

横石 崇(& Co. 代表取締役)
大西 正紀(mosaki 代表 / 株式会社グランドレベル ディレクター)
田中 元子(mosaki 代表 / 株式会社グランドレベル 代表取締役社長)
小林 乙哉(東京急行電鉄株式会社 都市創造本部 開発事業部 事業計画部 都市政策担当 課長補佐)

■モデレーター

庵原 悠(株式会社岡村製作所)

東急電鉄という東京のまちづくりの中で重要な立場となる企業の中で、長期的なまちづくりをどう誘導していくかを主なミッションとしている小林氏。1年ほど前まで担当していたという渋谷ヒカリエ8階にある「8/」に込められた小林氏の想いを語っていただくところから議論はスタートしました。

渋谷ヒカリエ8階を担当していたという小林氏

渋谷の面白い個人が集まる場

渋谷ヒカリエ「8/」は、中央にイベントスペース、周辺にはデザインミュージアムやギャラリー、シェアオフィスが存在。ヒカリエはフロアごとに用途が違うことに加えて、8階ではワンフロアの中に異なる用途の場が展開されているそうです。このユニークな試みには、「渋谷の価値が高まる場所をどうつくるか。面白い「個」が沢山集まることが渋谷の強みだと経験上感じていたので、その人たちが街の中で表現できる場所をつくっていきたいという想いがある」と小林氏は語りました。

8階の運営は東急電鉄だけではなく、個人や企業を含めた多様なメンバーを合わせたコミッティ(共同運営体制)が主導。東急電鉄が事務局となり、フロアとしてどのように品質を担保して目的を達成するかを話し合う場を設け、コミッティの意思決定の集合というかたちで運営しているそうです。

「具体的なイベントや場所をつくっただけでは何も生まれない。色づけをしなければならない。オープニングイベントのメンバーがその後も繋がっていて、”人が集う場”の聖地になればいいねと話している」と語りました。現在では地域プロモーション、ベンチャー、ソーシャルという文脈のイベントが増えてきており、そういったイベントの聖地になりつつあるそうです。

「小林さんがハードだとしたら僕はソフト」と切り出したのは、”場の編集者”である「&Co.」の横石氏。TWDW(TOKYO WORK DESIGN WEEK)というこれからの働き方を考えるイベントを手掛け、新会社「&Co.」を昨年立ち上げた横石氏が考える”場の未来”を教えていただきました。

“場の未来”について語る横石氏

“働き方の祭典”の仕掛け人

&Co.の中で「“余白を持ったコミュニケーションのスタイル”をテーマにお仕事をさせていただいています」と横石氏は言います。コミュニケーションの仕事をしているうちに、組織が取り組む消費者に向けたブランディングだけでなく、会社や組織の中に向けたブランディングやコミュニケーション戦略に関する相談が増え、今はそちらがメインの仕事になりつつあるそうです。

“場の未来”は「集中」と「交流」に二極化している中で、横石氏はどちらかといえば“交流”に関わる機会が多く、TWDWの場は「働き方を交わらせていく」ということをコンセプトにしていると言います。小林氏に出会って「そのようなコンセプトのイベントをしたいのでヒカリエの8階を貸してください」と頼んだら、3秒悩まれた末にOKの回答。「柔軟で自由な余白のある場所、ここ以外に働き方について語る場所はないだろう」という思惑どおり、4年で1万人が参加するイベントになったと横石氏は言います。
また、働き方のムーブメントを起こすにあたっては、東急電鉄と組めたことで、ただ単に場所を得るだけでなく電車の中吊りや渋谷の交差点等でもイベントの告知を展開できたことにより、想定以上の沢山のコンタクトポイント(企業と顧客の接点)を生むなど、プラットフォームを組むことのメリットを享受できたとも語りました。

「けどそもそも、“マチ”ってどこのことだろう?」
まちづくりを語るうえでの根拠となるこの問いを投げかけたのは、「mosaki」の田中氏と大西氏。いつもの「まち」が違った見え方をしてくるようなお話を田中氏に熱く語っていただきました。

“マイパブリック”について熱く語る田中氏

“マチ”ってどこだろう?

田中氏は「大きな力、誰かの力、見えない力でできていたはずの“まちづくり”というものが、私がすぐにできること、すぐにやれることによって変わるんだという手ごたえがありました」と語りました。その手ごたえを生み出すもととなったのは、彼らがスタートした個人的に屋台を出す「パーソナル屋台」プロジェクト。
「屋台を持ったら私も楽しいし、ひととき、まちを楽しく変えられる」という想いから生まれたこの屋台は、生業(なりわい)でなく、手ごたえを得た」と言います。そして「こういったことがまちに表出するために、私だけではなくいろんな人がやることでまちが少しずつおもしろく変わっていくんじゃないかな」という想いを信じて、建物の1階づくりからまちづくりに取り組む新会社「グランドレベル」を立ち上げるに至ったそうです。

ここで田中氏は「けどそもそも、“マチ”ってどこのことだろう?」という問いを投げかけました。「まちづくり、まちづくり、と言ってるくせに、小さなビルの4階にコミュニティスペースをつくりました、みたいな話が大嫌い!そういうことは1階でやれ!」という田中氏の指摘に登壇者陣も思わず苦笑い。mosakiのお二方が「まち」と呼んでいるものはすべて、社名でもある「グランドレベル」にあるといいます。プライベートとパブリックの交差点を意味する「グランドレベル」は建物の1階と地面がクロスするあたりを指すそうです。「グランドレベルこそが、その社会が幸せかどうかの鍵を握っている場所なのに、日本の90%は死んでいるのではないか。世界中のグランドレベルを見てきたけれど、こんなのは日本だけ」と田中氏は締めくくりました。

インタラクティブセッション

偶然の出会いは本当にデザインされるべきか?

庵原:まず最初にぜひ皆さんにお聞きしたいのが、この回の副題にもなっている「偶然の出会いから得る気づき」についてです。偶然の出会いや仕掛けというものはデザインできるのか、できると思うかという観点についてお聞きしたいと思います。

田中氏:デザインしてまで偶然出会いたいと思いますか?偶然をデザインしたい人って偶然に対して怠けているんですよ。犬も歩けば棒に当たるという良い言葉があるじゃないですか。もっと動けと。家の中に閉じこもってて「良い出会いが来ないかな?良い出会いのデザインないかな?」なんてそれはないなと。私は出会いにはやみくもに向かうしかないと思っているし・・・デザインできるの(笑)?

大西氏:例えば「何月何日の渋谷のこの会に出ます」というと、それはちょっとイベント化してしまって、そういうことを目的にした人が来るから僕らとしてはおもしろくないんですね。知らないところにポッと出て、何にも告知せずに、たまたま通りかかったおばちゃんが話しかけてくれるようなときに「おもしろい!」と思うんですよ。仕掛ける側としてはそういう想いがある。けれども、それは受け手側の人の中にも偶然の出会いをおもしろがってくれる人たちもいて、初めて成り立つのではないかと思います。

横石氏:田中さんのおっしゃることはすごく理解できて「偶然をデザインしたら偶然じゃないじゃないか」という話だと思うのですけど。ただ、戦略的偶発性という考え方もあって、それは編集をやっている人はなんとなく自然とやっているのではないかと思っています。

庵原:「補助線」に繋がるような話ですね。

横石氏:僕はパーティーとかに行くのが苦手で、初めて会う人と話したりするのがすごく嫌なんですよ。イベントをやっておきながら(笑)。どうやったら人と話せるのかな、と思ったときにやっぱり共通のテーマがちょっとだけあれば話が続くんですよね。まったく遠い人はお互い興味ないんですけど、ちょっと共通の問いとか、同じような趣味や好奇心が一緒だったりすると話しやすいなと思います。「働き方の祭典」というのは、そういう仕組みですね。働き方というのは、ほとんどの人が働いているということが前提なので、ある種、出会いやすいテーマだとは思うんですよね。仕掛けのトーンの強弱も含めて、出会うべき人が出会えばいいなと考えてますね。

庵原:続いて小林さん、この流れだと立場的にはちょっと難しい問いかもしれませんが。

小林氏:僕が田中さんのお話をうかがって感じたのは、出会いというのは個人と個人のきめ細やかなコミュニケーションじゃないですか。それ自体を設計するのは、そもそも僕の立場だと難しいと思っていますが、あのような形で人と人とが出会う機会を作っていくことは、本当に偶発的な出会いを生むだろうし、僕も魅力的だと個人的には思います。
一方で、「企業という立場で何ができるか」という立ち位置から見ると、あのようなきめ細かいことはできないが、我々に何があるかというと「空間」がある。場としてここの収益を上げなさい、などのミッションがあります。その空間を使って何ができるのかというアプローチで考えると、そこにある一定の興味がある人を集めてくるという機能は担える、担わないといけないと思っています。資産を持っている立場としては、使われていない公共空間を使おうという人が増えるといいのだろうと思います。

田中氏:私は企業や行政に対して、こう例えてよく言うのですが「弁当箱をぱんぱんに詰めてよこしてくるな!」ということですね。遊具もつくりました、コミュニケーションができる場もあります。あれもして、これもして・・・はい!できました、という形で提案が来る。それはもう入る隙間がないんですよ、受動的になるしかない。
でも、受動的である生活はみんな飽きているんです。自分が「ここなら何かできる、参加できる」と思えるような能動的に動ける「隙間」を欲しがっているんです。私の屋台の活動でも、行政はのびのびさせたいと言っておきながら、いざ活動を始めるとすぐに警備員とかがやって来る。私は行政や企業が、余白があって、質の良い器であることが大事だと思っています。

庵原:少しトピックを変えます。人の集う場というものを三者三様に考えられていると思います。今そういったところに取り組んでいる中で、課題と期待について話をしていただけないでしょうか。

小林氏:大きな空間に対して、誰か一人でいいので、思い入れのある、愛のある人がいるということが鍵を握っていると思います。その担い手づくりは、若い感覚を持ってしっかりリスクを負える人たちが、ある程度組織立って動けるとうまくいくのではないかと思っています。

横石氏:課題としては、音楽と同じで、自分の好きな情報しか入ってこないんですよね。世の中を知る機会がどんどんなくなってくるのだとしたら、戦略的偶発性という考え方を使ってそうした機会づくりをデザインできないのかなと思います。音楽が最近そうであるように、「体験」を通じて変わっていけるのではないかなと。ですが、なかなかそうは言っても、「意識が高い系」の方はわかっていても、その他のフォロワーはついてこないという状況が課題ですかね。

田中氏:いろんなことをしている状況を許しあえる環境が一番好きなんですよね。私は真の意味で多様性をつくりたいと思っています。「自分の予定外のことや、自分が本来選ばないような価値観やモノやコトが存在することが、あたりまえなんじゃないの?」って社会全体が思えるような環境が大事だと思います。どれも予定調和すぎますよね。そこの価値観づくりに課題と希望のどちらも感じています。

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